ピピピッ。
私は目覚めが良い。携帯の目覚ましは大体鳴った瞬間に消す事が多い。
背伸びをして起きると隣に寝ている彼はまだ深い眠りの中であった。
昨日準備した荷物を車に積むと、私は6時から始まる朝風呂を浴びに温泉に行った。
夏でも爽やかな朝の風と差し込む光が好きだ。
のんびりと湯に浸かりながら部屋で寝ている彼の話をリフレインしていた。
壮絶な人生を歩んできている。そしてもしかするとこれからもそれは続くのかもしれない。
何ができるわけでもないとは思うが、私と一緒に旅をする間だけでも、心から笑うことのできる時間にしてあげれれば…と、しみじみと感じた。
売店でみきゃんのTシャツとジャージと靴下を購入して部屋に戻った。
彼はベットに胡座で座りTVを見ている。「おはようございます。」笑顔で挨拶をしてきた。
おはよう、と言うと「あのボロボロの服は捨てよう。この服を着なさい。」と言って手渡すと、喜んで着替えた。
「何でピンクのみきゃんのTシャツなんですか?」と聞いてくるので、単なる俺の趣味だと答えると笑っていた。
1階のラウンジで軽食を食べた後、チェックアウトをした。
来た時とは違い、私の隣で荷物を持ち堂々と立っている彼は、一晩で人が明らかに変わっていた。
率先して私の荷物を持とうとする姿は、やはり料亭で下積みをしていた名残なのかなと思い感心した。
車に乗り込むと「○○さん、これからよろしくお願いします。」と改まって頭を下げてきた。
こちらこそ、よろしく頼むね。と言うと歯に噛んだ笑顔で元気よく「はい!」と返事をして助手席のシートベルトを締めた。