俺の人生は崩壊しかけていました。せっかく東京の大学に進学したのに、授業にもいかず、サークル活動もせず、大学には友だちもいない。実際毎日しているのはオバサン・オジサン相手の男娼みたいなものです。高校までは本をたくさん読み、友だち想いで優しいと言われ、勉強もスポーツも大好きだった俺が、ずいぶん遠くに来ちゃったなと、ある晩ベッドで寝転んでいたら涙があふれてきました。もうどこにも帰る場所も頼れる人もいません。怖くなって外でも聞こえるはずの大声で叫んだけど、誰も様子を見には来ませんでした。
これではダメだと思って、サークルにはいくようにしました。ずいぶんサボってたけどみんな暖かく迎えてくれて、「なんか吹っ切れた?」と言ってくれる女子の先輩もいました。ちょうどそのころ、次の学園祭で上映する作品の脚本作りが始まっていて、俺はもともと関心のあった演出チームに割り当てられました。脚本を読んで、演者の心理とか状況を考えながら、どういう場面にして、どういう動きをつけるか、監督に報告するのです。ここで、俺の男娼としての経験が役に立ったことを下書きしたのですが、真面目すぎるので全部消しました。エロくないだもん。簡単にいうと、ゲイビデオの男優さんって、ケツにチンポを入れられて「気持ちいい」とかアンアン言ってるのに、チンポは勃ってないことが多いし、マッキー先輩みたいにいかにも演技で声を出している、ということです。ヨーロッパのゲイビデオだと、ウケ役も全員勃ってるし、先走り汁まで垂らしています。お客さんが映像に何を求めているか、欧米と日本では違いがあるんですね。
久しぶりにサークル活動を始めた俺が、けっこうみんなの役に立っているというので、俺を勧誘した部長も喜んでいました。ただ、リアリティを虚構でどう表現するのかで、1年と2年の方針の違いが表面化してきました。1年はまだ映画制作の経験が浅いので、学生俳優の演技力やカメラワークでは無理なことをまだわかっていない感じ、2年は下手に経験があるので、できることだけしようとして、挑戦が足りない感じでした。俺は、出会い系でいろいろな人をみていたので、世の中はカネと嘘とセックスでできている、という世界観でしたが、あんまり刺激的にならないように言葉を選んで、こうしたらいいんじゃないか、という意見を言いました。「出たよ、評論家」みたいに言ってくる人もいましたが、王子様風の1年生だけは、俺の意見をふんふんと聞いていました。こいつ何ていう名前だっけ?と思っていたら、「先輩、あとで話しません?」と誘われました。
人生の次のステージに進むため、ここでしか書けない話を、大学とか地名を特定されないように、実際の話をちょっとずつズラして俺の体験を書きました。おわり。