もうそこからは大変だった。
人だかりができて悲鳴をあげる女子、遠くから走ってくる俺の仲の良い仲間達に先生達。
そして顔面蒼白でただその場に立ち尽くすTとKくん。
俺はと言うと頭を必死にフル回転させて考えていた。
喧嘩の仲裁で怪我をしたなんて言えばTもKくんもただでは済まないだろう。
せっかくの旅行が台無しになる。
それだけは絶対に避けなければならない。
幸い痛みなんてさほど感じないし、多分派手に出血してるだけでさほど大怪我とも言えないと思う。
さぁてどうしたものか。
先生:ゆう!お前その腕…
俺:なんか切っちゃったみたい…
ちなみにうちのクラスには俺と同じ苗字がもう1人いるため先生は俺を下の名前で呼ぶ。
先:とにかく医務室行くぞ
俺:うん…あの、おれ大丈夫だよ!
聞こえたかな?
TからもKくんからも返事はなかった。
周りがだいぶ騒がしいから伝わらなかったかも…
先生にタオルでぐるぐる巻きにされた腕を支えながら白くて綺麗な部屋に入った。
ベッドがあってなんか保健室みたい。
お医者さんかな?
女の人が傷を見てくれた。
タオルを剥がす時ちょっと痛かった…
痛みはどうかとか頭はボーッとしないかとかいろいろ聞かれたけど、全部大丈夫って答えた。
この部屋に入ってから腕は痛み出したけど、切ったんだから当然だ。
幸い縫うほどの傷ではないと言ってくれたから大事にはならなかった。
ただ旅行中できる限り安静にする事と、痛みがひどくなったり何かの拍子で出血したら病院に行く事を念押しされた。
先:どうしてこんな事になったのか話してくれるか?
あの場にはたくさん人がいたし言い訳は難しいだろうけど、怪我をした張本人が言い張れば乗り切れると思った。
俺:転んだら石だか釘だかがあって切ったみたい
先:ただ転んだなんて事ないだろう?喧嘩がどうとかってみんな…
俺:先生?俺旅行を台無しにするの嫌です。これは完全に俺の不注意だし誰のせいでもない。迷惑かけた人には俺ちゃんと謝るから。お願い先生。
先:誰かに何かされたとかではないんだな?
俺:そんなのありえない。お願い先生、大事にしないで。
先生はふぅ〜と大きく息を吐くとここで待ってろって外に出て行った。
医:傷に障るから泣いちゃダメよ
俺:すみません
医:喧嘩の仲裁だったんでしょ?聞いたよ
俺:・・・・・
医:大丈夫よ、先生には何も言わないから
俺:なんで?
医:私の仕事じゃないもの
俺:俺のせいで喧嘩になっちゃったから全部俺が悪いんです。大事な旅行をめちゃくちゃにしたくない。俺いっつも大事な時にめちゃくちゃにしちゃうから。謝りに行かなきゃ。
医:ダメよ、もう少しここにいなさい。大丈夫だから。
結局先生は事を荒立てたりしないでくれた。
医務室を出ると友達が勢揃いしていて手厚く介護してくれて、まるでボディーガードみたいだったw
でもそこにKくんの姿もTの姿もなかった。
後から友達から聞いた話だと、医務室での先生やお医者さんとの話をKくん含めみんな聞いてたらしい。
珍しい事にK泣いてたぞって教えてくれた。
大丈夫だぞ、KもTもまとめて俺らがとっちめといたからなって。
胸が締め付けられた。
俺:ありがとう、ごめんね。
怪我をした現場は血の跡なんて跡形もなく消えていて、仕事の早さにビックリした。
すると、遠くからKくんが歩いてくるのが見えた。
俺の右腕を掴むとうつむきながらつぶやいた。
K:ごめ…
俺:ごめんね。こんな事になっちゃって。でもこれ大した怪我じゃないし、先生もわかってくれたと思うから。ほんとにごめん。
泣き腫らした目が見れたりしてとか思ったけど、終始うつむいていて見えなかった。
Tにも謝りたかったけど、結局帰りのバスに乗り込むまで見つけられなかった。
バスに乗るともう話すタイミングなんてなくてソッコーでホテルに到着した。
今日は2人1部屋のホテルなのだが、出席番号順で正直ほぼしゃべった事のない子と一緒だ。
バレー部でウェイ系のちょっと苦手なタイプ。
ウェイ男:大丈夫…?
俺:あ、うん、大丈夫だよ!
ウ:あのさ、俺真っ暗で静かすぎると眠れないんだよね…今日音楽流して寝ても平気?
俺:いいよ…
そのあと彼はすぐに枕元のつまみをいじくり回して有線をオンにした。
気まずさが炸裂してる中彼は友達のとこに行くと言い残して出て行った。
音楽流しっぱかよ…
今日は大浴場は諦めるようにとお医者さんに言われてしまったので目の保養は諦めなければならない。
非常に残念だ。
こんな事考えてるくらいだからきっと怪我も大した事ないなと自分で自分に呆れていると、携帯が鳴った。
そこに表示されてたのはTの名前だった。