大学生のときに、高校生向けの学生塾で講師のバイトをしていた。
そのとき、授業後によく質問してくるのがきっかけで仲良くなった、コータという生徒がいた。
高校も進学校で塾内でも優秀なんだが、見た目はスクールカーストの上位層にいそうなお洒落なイケメン。
イケメンらしく部活はサッカーということで、体もスリムで引き締まっていたし、男女問わずいつも友達に囲まれているような、本当にキラキラした生徒だった。
仲が良いといっても塾より外の付き合いがあったわけではなく、校舎のなかで一緒に話す機会が多いという程度。
それでも、コータの爽やかな笑顔を間近で見つめられる時間は幸せで、バイトを続ける最大のモチベーションはそれでもあった。
バイトは就職のために辞めた。
大学は地方だったけど、就職は東京だったので、コータとは完全にお別れになってしまう。
それを伝えたとき、4月から高校3年になるコータが「ありがとうな、先生」と涙目になりながら言ってくれたせいで、俺も不覚にも涙声になってしまった。
そして、社会人になって3年目。
休日に渋谷を歩いていた最中、突然まえから声をかけられた。
「先生? ◯◯先生?!」
びっくりして顔をあげると、同じく驚いた顔をしたコータが立っていた。