抵抗のそぶりを見せないことは確実に痴漢を勇気づけます。
すぐ暴れるか声を上げるかすれば私もあんな目には合わなかったでしょう。
驚いて動きを止めた私は、気が付くと両手でお尻を触られていました。
この瞬間の心境はおそろしく複雑でした。
怖い、逃げなきゃ、という思いは明らかに存在していましたが、同時に期待しているところがなかったとは断言できません。
水着の縫い目を食い込ませるようなに指がお尻の割れ目へ分け入ってきた頃には、期待は小さくとも確実に芽吹いていました。
尻を押されつつ歩きながら、触られたときのこと、自分でしたときのことを、ものすごい速度で反芻したことを覚えています。。
水着の股間を刺激される快感。引き締められた下半身を這われ、まさぐられる快感。
水着姿の恥ずかしさ。着用感の恥ずかしさ。そんな恥ずかしい水着の、一番恥ずかしいところをまさぐられる恥ずかしさ。
何重もの羞恥の中、腰を振って果てる快感…
脚をピンと伸ばし、パンツを食い込ませたまま絶頂するときの、あのエッチで何ものにも変えられない快感を思い出し、逃げるのに手間取っているフリをしながら触ってもらおうかなどと愚かしいこと考えも頭をよぎりました。
ただ、喋り続ける男の異様な感じは私をその都度幻想から呼び戻し、足を進めるだけの抵抗とも言えない抵抗を続けさせました。
ところが、しばらく進んだところで男が時折歓声を上げ、飛び上がっては潜るような動作を始めると、その歩みも鈍ってしまいました。
男がざぶんと潜るとき――文字通り期待に膨らんだ股間へ手が伸びてきたのです。
すっかり準備のできているあそこですから、ヌルンと撫でられただけで滑稽なほど身体がビクリとし、全身に鳥肌が立ちました。
二度、三度、上下左右に撫で擦られ、混乱の中でも自覚できるほど腰をよじらせてしまいました。
逃げるどころかまんざらでもないような態度でいっそう大胆になったのでしょう、飛び上がるのをやめた痴漢は身体を密着させ、肩にほとんど顎を乗せるように屈んできて、何の躊躇もなく前を触り始めました。
(いくらなんでも大胆すぎると思うのですが、この先数分間誰の助けもありませんでした)
モミッ、モミッ、ギュッ、ギュゥッ…
荒くゆっくりと揉んできます。いずれかの指が時折剥けた尖端を水着の上からひっかくような形になるのが、私をビクビク反応させました。
(あっ、あっ! え、エッチぃ、きもちぃっ)
直接こんなことをされてはいくらサポーターをつけていても無駄で、私がことさら弱い種の性感を送り込まれて一気にスイッチが入ってしまいました。
揉み込む手の動きに合わせて腰が動き、内腿の筋肉が締まっては緩みを繰り返します。。
痴漢は依然意味不明なことを喋り続けていました。耳元で、その上かなり大きな声で、です。
しかし股間への刺激に意識が集中し、内容を聞き取る余裕はもうありませんでした。
耳元でひたすら嫌悪を喚起され、全身で羞恥を味わい、股間で強烈な性感の虜になる――
一分とかからず快感への欲求が嫌悪を上回りました。
(イきたい…っ!イきたい…っ!)(この頃にはもうイクという言葉を覚えていました)
フッ、フッ、と鼻息を漏らしながらぎくしゃく腰を振り始めた私。
(もっと、もっと、そのまま…!して…して…!)
と、ある意味ソフトな痴漢行為の虜になりかけたあたりで、恐ろしいことが始まりました。
ズルっ!
「あっ!?」
小さくですが、思わず声が漏れました。お尻の手が、パンツの中、サポーターの中に入ってきたのです!
指が直接割れ目の奥を探り、私は飛び上がらんばかりに驚きました。慌てて後ろ手に痴漢の腕を掴み、やめさせようとしました。
しかしその隙にもう片方の手が前へ…
スルッ…
「ヒッ!」
ゾワァッ!
敏感な部分を虫に這い回られたかのような刺激で、全身がピンと伸び、お尻はキュッと締まって痴漢の指を咥え込みました。
(パンツの中…!!)
恐怖しました。自分でするにもいつも布越しで、直接触られるということがどういうことになるか分からず、乱暴にされたらダメにされてしまうと思っていたからです。
しかしすぐ分かったのは、前へ伸びた手は水着の中に入りこそすれ、サポーターの中までは侵入していないということでした。
直接あそこを触ろうとしたに違いない痴漢にこれは不可解だったと見え、股布の表面や縁をひとしきりモゾモゾ探った後、一言おかしなことを口走りました。
「なんだ?パンツ穿いてんのか?スケベか?」
(…!?)
スケベか?の意味が不明で嗜好を見透かされたのかとゾッとしましたが、今考えるに痴漢はサポーターというものの存在を知らず、手触りや形状から私が女物の下着を穿いて泳いでいると思ったのでしょう(パンティの名にふさわしい代物でしたから無理もありません)。
ともあれ突然ひどく通る声で性癖を暴露するようなことを言われ(またおそらく同時にフェチな嗜好をくすぐられて)顔が火照りました。
「違います」
と間抜けな答えを返して腕を振り払おうとするも叶いません。
抵抗の最中、直のお尻へ達していた手が進んで引き抜かれたため一瞬諦めてくれたものと思わされましたが、股間の手はしぶとくあそこをつかんでいる上、お尻の手も再び、何の躊躇もなく水着の中へ潜り込んできました。
ただ、そうして再び手が挿し入れられたのは水着とサポーターの間でした。
明らかにサポーターの存在へ注意を逸らされた痴漢は、前後にサポーター越しの腰をまさぐりながらまた耳元近くでぶつぶつ喋りはじめました。
至近距離にも関わらずほとんど聞き取れなかったのですが(なんでこんなもの穿いてるんだ、脱げよ、みたいな感じだったと思いますが)、しばらくしてはっきり次の一言が聞こえました。
「このスケベパンツ」
一気にあそこへ血が集まり、いっそう固く大きく膨らみました。
私がサポーターに感じていたことの代弁であり、それを穿く私への言葉責めであり、私の倒錯に対する罵倒でもあるような一言…
次の瞬間痛みが走りました。思いきり固くなったあそこが、それまで以上の力で揉まれたのです。
「痛っ!」
と言うと、またしてもよく分からない声を発して男は一度手をどけたのですが…
この後本当に信じられない行動をとりました。お腹のあたりを探って、何かを引っ張ったのです。パンツの紐でした。結び目を解いたのです。
私がそれに気づくが早いか、競泳パンツの両脇に指が突っ込まれ、グッ、とつかまれる感覚、脇へグイ、とゴムを伸ばされる感覚、そして――
グッ、グッ……ズルッ、ズルッ!
(!!!??)
動転しました。いくら痴漢でもここまでするなんてまったく思っていませんでした。
こんなところで、これだけ人がいる中で、人のパンツを――!
途端にお尻や股間に触れる水の感触が変わりました。
まだサポーターが残ってるのに、すごくひんやりした感触がして、水着を脱がされたことを強烈に意識させられました。
腿まで降ろされた水着を慌てて直そうと半ば顔を沈めて手を伸ばしました。
が、水着をつかむ前に痴漢の手が再び両脇へ触れてきて、私は水着をそのままに、サポーターを腰骨のあたりでつかんで引き上げ、最後の砦の死守に専念しました。
痴漢は尚もサポーターのウエストをつまんで引き降ろそうとします。
「やめてください」
ようやく声を絞り出しました。しかし大声をあげたつもりがかすれ声で喧騒にかき消されてしまいました。
必死のガードを受けて痴漢は手を改め、背中側のゴムをグイと引いてきました。
お尻を半分水中で剥き出しにされましたが、それでも私は懸命にサポーターを押さえ、丸裸にされることだけには抵抗し続けました。
そうこうしているうち、どこかから人のはしゃぐ声が近づいてきて、痴漢は再び私にぴったりくっつく体勢に。
そして依然サポーター越しの股間へ、何度目かの攻撃をしかけてきました。
このときの触り方が私には耐えがたいものとなり、まもなく人生最大の恥辱のときを迎えることになります。