プールへ行く約束をした日の出発直前、私はタンスの下着の入っている引き出しを探っていました。
普段は白か水色のブリーフを穿いていたのですが、着替えのある日に限っては前日からトランクスに替えて出かけていました。この日は危うくブリーフのまま出かけるところだったのです。
奥の方にビニールに包まれたままのトランクスがありました。
せっかくだから新しいのを穿いていこうと目につく袋状のものをすべて外に出したところ、中のひとつが競泳パンツを買ったスポーツ店の袋でした。
なんだろうと中を調べると、以前書いた通り、開封すらしなかったスイムサポーターが入っていたのですが…
目を見張りました。
パッケージの透明部分に覗いているのは異様なほど光沢のある白い布地。
それだけで私の股間はぴくりと反応しましたが、真に恐るべきはその品名でした。
「メンズスポーツパンティ」
(ぱ…パンティ…?)
驚いて裏に表に目を走らせますが男性用に間違いはなく水泳用と注記もあります。
妙なときめきを感じました。
(男の子用で水泳用なのに…パンティって…)
この時点でスイッチの入りかけた私ですが、店の貼ったらしい値札に印字された品名がさらなる追い打ちをかけました。
「男子用スイミングパンティ」
パッケージの品名とは違ったので店の誤記か管理名と思いますが、ともあれ水泳中にパンツ状のものを穿いたまま気持ちよくなるというシチュエーションにとりつかれていた私にとっては劣情を煽る呪文でした。
(男子用で…パンティ…?スイミング…パンティ…?)
息を荒くしかけたものの、待ち合わせ時間が近づいていたため吟味もそこそこにトランクスに穿き替え、サポーターは袋のままバッグの底に突っ込みました。
道中は平静を装いながらも上の空でした。
実はこの夏プールへ遊びに行くのはこれが二度目のことでした。
一度目のときは、私としては珍しいことに、まったく股間を疼かせることがありませんでした。
保護者なしの友達同士で遠出することが本当に楽しく、妄想のとりつく隙がなかったのです。
プールではまた痴漢がとの考えもいっとき頭をよぎりましたが、泳いだりじゃれ合ったりしているうちにそんな不安や期待?は消しとび、探検気分でプールの隅々まで泳ぎ歩き回りました。
行き帰りに普段縁のない町を歩くのも買い食いするのも新鮮な冒険に感じられ、帰宅後も心地よい疲れから早々に就寝して、ヘンな考えをめぐらせる間などなかったのでした。
プールと関わりのあった日で、あれほど無垢で輝いていた一日はありません。
おかげで以後の数日もまったく健全に過ごせていたのですが…
二度目のこの日はたった一枚のサポーターと包装で淀んでしまいました。
到着後、着替える際んいはどことなくためらわれ、私は競泳パンツだけを身に着けました。サポーターを取り出したのは一人トイレへ立ったときです。
ロッカーへ戻り、サポーターを袋から出してタオルに挟むと、それを持ってトイレの個室へ入りました。
中で広げて初めてまじまじ眺めた白のサポーターは、まさにパンティといった形と質感でした。
びっくりするほど光沢のあるナイロンはサテン調で裏表ともスベスベ。
男の子が見に着けるものとはとても思えませんでしたが、売り手が想定した着用者はまぎれもなく男子です。ためらう理由はありません。
競泳パンツを脱ぎ、意を決して脚を通しました。おそるおそる、ドキドキしながら腰へ引き上げます。
はりのある生地で伸縮がないように思われ一瞬穿けるか不安になりましたが、ぐいと引き上げると意外にスルッとお尻を呑み込みます。
そして同時に、
キュッ!
(…!)
ピチッッ!
(…っ!)
ツルツルピタピタの一枚布が、ぴっちり吸い付いて締め付ける感触。
競泳パンツの吸着感や密着感とは別種の、あそこを吊り上げるような引き締めに、全神経が股間へ集中します。
(すごいキュンキュンする…)
すぐに悪戯したい衝動にかられましたが思いとどまり、本来の用途にしたがってそのまま水着を穿き上げました。
二重の締め付けは未体験のホールド感で、股間のキュンキュンが倍化しました。
またその場で悪戯を始めたい誘惑に抗ってプールへ戻れたのは、欲情に打ち勝ったのではなく、ひとえにこの状態で泳いでみたいと思ったからに他なりません。
友達のいる場所よりもだいぶ手前で水に入りました。
膨らみかけたあそこをきつく押さえつけ、絶え間なくフィット感を送り込んで常に股間へささやきかける二重の薄布…
見えないのをいいことに腰をよじったり前後させてみたりしました。
水流が締め付けられた膨らみを揺さぶるのが、なんとも癖になりそうな感覚でした。
そんなふうにして人の間を進んでいたとき、例の、二度目の事件が起きました。
肩を強くつかまれ、頭上から男の人の声が飛んだのです。
どけ!と怒り気味に言われた気がして、私は振り向きざま弱弱しく
「すみません…」
と返してしまいました。恐らくこれが、この男を自信づけてしまったのでしょう。
ゆっくり歩くことしかできない私の肩を男はつかんだままでいました。
この時点で気がついてもよさそうなものですが、私は自分がいつまでも進路を遮っているのだと考えて、あろうことか
「すみません」
ともう一度男に謝ってしまいました。
おお、と返事ともつかない声が聞こえ、その後なにやらぶつぶつ男の喋る声が聞こえてきました。
このときは男が知人と喋っているのだろうと疑いませんでしたが、恐らく私と知り合いであるかのように装うために適当なことを喋り続けていたのだと思います。
当時それに気付かなかったのは、私の方で返事をしていないのに、男がしきりに相槌を打っていたからです。体格のいい大人の男が数人、自分のせいでつっかえて並んでいる場面を想像して怖くなりました。
そうこうしているうち、
「あっちだ、あっち」
と方向を指示する声が飛び、肩を強く押されました。
脇へ寄って通せという意味とばかり思い無言でしたがいました。
が、男はいつまでも手を離しません。
水路状になった場所へそのままついてきます。そして――
もしかして、と考えた直後だったと思います。手が、お尻の右側をギュッ!と強くつかんできました。