僕達は南口で会ったのに、けっきょく西口側の高層ビルの方に行きました。オフィスビルの地下にある居酒屋はわりと空いていました。僕はトマスとの他愛のない会話を楽しみつつ、時々見せる無邪気な笑顔に目を奪われていました。でも時間が経つにつれ、居酒屋の後はどうしたらいいのかということばかり考えてしまって、会話に全然集中できませんでした。
結局居酒屋を出たのは9時過ぎ。この時は2月で外は寒かったはずなのですが、酒がいい具合に回り、トマスと一緒にいるおかげで、その冬の空気は酔いを冷ましてくれる心地よいものでした。二人とも何も言わずにぶらぶら歩き出すと、トマスが「いい店を知ってるから一緒に行く?」と言ってくれました。連れて行かれたのは、ゴールデン街の近くにあるゲームバーみたいなところで、狭い店内にはいろいろなゲーム機が置いてあって、外国人の客も何人か来ています。店に入ると、トマスはマスターみたいな人と挨拶をかわしました。どうやらそこには何度も来たことがあるようです。彼は嬉しそうに酒を飲みながら、他の客と混じってゲームを始めました。普段ゲームなんてしない僕は、あまり積極的に輪に入ることができず、ちょっと退屈かなと思いましたが、嬉しそうにモニターを見ながらゲームをする彼の横顔がまたカッコ良すぎて、僕は終止眺めていました。そして彼は僕にどんなゲームが好きか聞いてきました。僕はそこにスマブラがあるのを見つけて、よく友達とスマブラはやっていた、と答えました。そこから僕とトマス、それにオランダ方来ているという旅行者と、彼の日本人の友達での対決が始まりました。友達とやっていたと言っても、たまに大学のサークルの部室で暇なときにやっていた程度で、ゲームバーに通ってるようなゲーマー達に勝てるはずもなく、僕一人あっけなく負け続けました。そしてはしゃぎ過ぎて疲れたかなというころ、トマスは「そろそろ行こっか」と聞いてきました。
バーの出口を出て階段を下りると、すでに11時を過ぎていました。新宿は相変わらず混んでいましたが、少しだけ人通りが減っているようでした。何となく駅に二人で歩いて向かっている中、この先どうするのかわからない微妙に気まずい沈黙が漂っています。ここで家に来ないか誘ってみて断られてもいやだし、そのまま夜が終わっちゃうのもいやでした。僕はとりあえず「明日はどうするの?」と聞いてみました。「宿題やるよ」となんとも次のアクションがとりにくい答えです。
「タクは?」
「家の掃除と、俺も宿題やらなきゃ」
「そっか」
気まずい沈黙がまたきました。
でも僕はもうどうなってもいいやと思って、「Do you wanna come to my place with me now?」と誘ってみました。その質問をしてからの数秒は、永遠のように感じられました。彼は僕の顔を見ると、「Sure」と言ってくれました。僕はその答えを聞いただけで、その意味することを考え、下半身がうずいてきてしまいました。僕たちはメトロに乗り、家に向かいました。僕の隣に座った彼の距離が心無しか普通よりも近く感じられ、彼の太ももが僕の太ももに触れているのが、すごくセクシーな状況に感じました。