コメントありがとうございます。やる気出ます!今家で色々勉強中なので、気分転換になってすごく嬉しいです。なんか書くと昔のこと意外と鮮明に思い出すなー…。今回ちょっと長いです。切りどころわかんなかった。
それから、3か月ぐらい後。世間がちょうどやっとあったかくなってきた頃。俺は休みの日にアキラさんと買い物に来ていた。
俺らはあまり外に一緒に出掛けることはない。休みがなかなか合わないのもあるけど…。
普通は男同士2人で噂になんてならないだろうけど、俺の仕事がゲイバーだし、そんなに近辺に多いわけではないから興味本位で来る人も多い。変に噂が立ったらいけないから、通勤も別で行動していた。
だから、アキラさんと出かけたのはかなり久しぶりで、何気に楽しんでいた。一緒に飯食って、アキラさんの買い物に付き合って、店で使うアキラさんのアクセ見に行って。
「大分あったかくなってきたなー、今年の夏はどっか旅行とか行きたいわ。俺冬より夏が好きー」
「俺は、夏はあんまりですかねー…暑いとすぐにバてる…」
「マサキは肉もうちょいつけないと。夏までに5キロ増やそう!よし、目標!」
そんな感じの会話をしながら、時間が過ぎて行った。ちょうど夕方ぐらい。アキラさんがショッピングモールに入ってる店を見たいってことで、ショッピングモールに来た。
日曜日だったから客が凄く多くて、ちょっと人酔いしかけてた。買い物も終わって、人酔いした俺を気遣ってくれて、もう帰ろうかとしていた時だった。
一瞬、夢でも見てんのかって思った。瞬間、立ち尽くして、一瞬でブワッて変な汗が噴き出してきた。立ち止まった俺を、アキラさんが不思議そうに見てくる。
「マサキ?どうした?」
「あ、いえ…」
立ち止まって、貧血起こしそうな感覚にクラクラしてたら、アキラさんに声をかけられた。何でも無い風に返して、歩き出す。一時、頑張って歩いたけど、だんだん気持ち悪くなってきて、アキラさんにトイレに行きたいと告げて、個室に入った。入った瞬間、昼に食った物全部吐きだした。
いきなり気分が悪くなった原因はわかってた。
さっき見た、出口付近にあったカフェにもなっているパン屋。窓際に座ってた一組の家族。家を出てから一度も会っていなかった、俺の母親がいた。隣には俺のことをずっと殴ってた、あの男。間に挟まれて、4、5歳ぐらいの女の子が座っていた。
どこからどう見ても立派な家族。あの女も、彼氏も、あの頃見たことも無かったような顔で笑ってた。女の子は、2人に挟まれて幸せそうにパンを食べてた。殴られたことなんて、一度も無いって顔で。
(俺の妹?)
頭の中が混乱して、何も考えられなかったし、考えようとしたら吐き気がして、黄色い胃液となんかわかんないけど涙が出てきた。
「マサキー?」
ドアの向こうから、アキラさんの声がした。すごく戸惑ってる声。俺がなかなか出てこないから心配して入ってきたんだと思う。
胃液ももう出ないかなってくらいまで出し尽くして、少し吐き気と気持ちも落ち着いて、個室から出るとアキラさんが近寄ってきた。
わけがわからないって顔で、俺を見てくる。
「マサキ?吐いたの?どした?ずっと気持ち悪かったの?なんかあたったかな?」
臭いやら顔とかのせいか、吐いたのは速攻ばれた。頭が混乱してなんて説明していいかわかんなかった。
「…さっき…母親がいた」
それだけ言うと、アキラさんの顔があからさまに強張る。人がそこで入ってきた。アキラさんは、何か言いたそうだったけど、人目を気にして、一言「帰ろう」と言った。
玄関に入った瞬間、アキラさんに抱きしめられた。アキラさんの匂いを嗅いで、少し心が落ち着いた。
「マサキの家はここだからね」
一言そう言われて泣きそうになった。
その日以来、俺は飯が食えなくなった。正直、ここまでトラウマになってるって気づいてなかったから、毎日飯を食った後に来る吐き気に戸惑った。
アキラさんに言われて、バイトも休みをもらった。でもアキラさんが仕事に行ってる間、1人になることで、逆に考える時間が増えて、頭の中がグルグルしてた。
(あの女の子は、あいつとあの女の子どもなんだろうな…)
俺みたいに虐待されてなさそうで良かったって気持ちと、何で俺ばっかりが殴られないといけなかったんだろ…て気持ちがずっとモヤモヤしてた。
彼氏は、俺のことを殴る時、「お前は汚いガキだから、俺が綺麗にしてやってるんだ」って言ってた。
あの女は、「お前があの人の言うことをちゃんと聞けば、殴られないのよ。ちゃんといい子にしなさい」って言ってきた。
お腹がすいて、冷蔵庫の中の生野菜を食べたら、「どうして給食をいっぱい食べてこないんだ」って怒られた。
お腹を蹴られて、吐いてしまった時に、「食べたものを粗末にするな」って殴られた。
家を逃げ出して、解放されたって気分と、なんで探しに来てくれないのかな…って矛盾した気持ちをずっと抱えてた。
あんな奴ら、家族なんかじゃないって思う気持ちの中で、もし俺がもっといい子だったら俺を息子として見てくれたのかなって気持ちが入り混じってた。
あの幸せそうな女の子を見て、俺の頭はパンクしそうだった。
ちゃんと、子どもを愛せる人達だったんだ…
じゃあ、俺はなんで殴られてたんだろ…
やっぱり俺が知らない間に悪いことをしてたのかな…
それとも俺が男だからダメだったのかな…
娘だったら、愛してくれてた?
そんな想いがずーっと頭の中をぐるぐるめぐって…。しかも、そんな頭の中だから、アキラさんのことも繋げて考えてしまって…。
アキラさんが、営業の電話で女の子に優しい言葉をかけているのを聞くとずっとモヤモヤするようになっていた。
(俺が女だったら、こんなモヤモヤすることもないし…コソコソ付き合う必要無いし、アキラさんを困らせることもなかった。子どもも作ってあげれるし…。男の俺は、色んなとこで邪魔なんだ)
そんな面倒くさい状態の俺に、アキラさんは凄く優しかった。せっかく飯を作ってくれても食べることが出来なくても、「無理すんな」って責めることもしない。
いつもはアフターとかが入る休みの前の日も、仕事が終わって速攻家に帰ってきて。何を言うでもなく、俺の隣にいて、バカな話をして笑わせようとしてくれて、夜は抱きしめながら寝てくれた。
飯が食えなくなって二週間ぐらいが過ぎた頃。調子のいい時飲めるウィーダーインで栄養を取ってたせいか、どんどん痩せてって、自分でも見苦しいなって思う体になってた。まぁ、中学卒業の時の体重が大体40キロ無かったから、その頃に比べたら全然体重あるんだけど。
その日はアキラさんが仕事休み。俺もちょこちょこバイトに出るようになっていた。(常連の姉さん達にものすごい心配されて、マスターには休めってすごい言われたけど…)
2人でソファでDVDを見ていた。アキラさんとの会話があれからとても減った。多分アキラさんも気を使って何を話していいかわかんなかったんだと思う。
話しかけてくる言葉は、とても優しくて、でもその腫物に触るような優しさがいつも申し訳なかった。
DVD見てたら、いつもの吐き気が来てトイレに駆け込んだ。といっても、ウィーダーインしか飲んでないから、透明の液体しか出ない。吐いている最中、アキラさんが入ってきて、背中をさすってくれた。
「マサキ、大丈夫?少しは楽?大丈夫だから、側にちゃんといるから」
その問いには答えられず、吐いている合間に横目でアキラさんを見た。すごく、困ってるような辛そうな顔。改めてその顔を見て、なんかショックだった。
(こんなに優しい人を困らせてる…俺がこんなだから…)
なんかアキラさんと一緒に暮らし始めてから、ずっと感じていたモヤモヤが理解出来た。
俺は負担しかかけてない。リスクを背負わせて、俺の面倒くさい過去を背負わせて、結婚とかの現実的な問題でも経済的な問題も負担しか負わせてない。
こんな偏った関係、無理が来るに決まってる。
こんなに好きになったの、初めてなのに、その好きな人に重い荷物を背負わせてるってことが、ずっと嫌でモヤモヤしてたんだってやっと理解出来た。
吐き気が落ち着いて、ソファにもたれかかると、アキラさんが隣に座って肩を抱いてくれた。
少しの間の後、アキラさんが切り出した。
「マサキ…一緒にカウンセリング受けにいこっか。お前が病気とか言ってるんじゃないよ?変な意味とかじゃなくて、実際食べれてないし、どんどん痩せてるから…。俺も一緒についていくから」
「はい…。カウンセリングは行きます。俺一人で行きます」
「一緒に住んでる以上、ちゃんと俺もマサキのこと理解したいから、一緒に行くって…」
「アキラさん…俺ら、別れましょう」
どこまでも優しいこの人を、俺から解放してあげたいって思った。