ドタキャンされたキョウスケさんが、憂さ晴らしにウチで飲み明かすってことで、三人で俺らの家に帰ってきた。
家に来て早々、福助と戯れて、高そうなスーツを毛だらけにしているキョウスケさんをほっといて、キッチンでつまみの用意をしていると、アキラさんもキッチンに入ってきた。
「なんかごめんな…。明日休みあったの久しぶりだから、今日はゆっくりDVD見ようって言ってたのに」
お互いの休みの前の日にアフターとかが入ってないのが久しぶりで、今日店に行く前に言っていたことを謝ってくるアキラさんに「気にしないでください。久しぶりにキョウスケさんに会えて楽しいですし」と返す。
レンジに、冷凍していたおかずの残りを入れていると、アキラさんが後ろから抱きついてきた。冷蔵庫の影でちょうどリビングからは死角になってる所でそんなことしてくるもんだから、ちょっとドキドキ。キョウスケさんに隠れてなんか悪いことしてる気分でちょっと興奮。笑
「久しぶりにいちゃいちゃ出来ると思ったのにー…」
低い声で言われて、なんかなんて返していいかわからず無言になってしまった。ホストモードのアキラさんはなんか色気がある。そんなことしてたら…
「イチャイチャ禁止――――――!!!!」
見えていない筈のリビングからキョウスケさんの大声がこだました。瞬間、舌うちしたアキラさんの顔がちょっと怖かった…。
ザルっていうか、ワクなんじゃないかってくらい二人とも酒に強い。俺は疲れているのもあって、少しの酒で酔っ払って先にベッドに入ってしまった。
途中でトイレに行きたくなって起きた。眠りについてから2時間ぐらい。リビングの電気がついている。隙間からリビングを覗くと、2人ともまだ飲んでいた。朝の4時ぐらいなのに二人とも全然飲み始めたぐらいから変わらない。
スゲーなーと思いながら、トイレに行こうとすると気になる話が耳に入ってきた。
「てかさ、実際そろそろ女の子が恋しくなるもんじゃないの?」
そんなキョウスケさんの言葉にトイレに行こうとしていた足を止めた。心臓がなんかすごいバクバクしてた。
(本当余計なことしか言わないな…)
心の中でキョウスケさんに舌打ちしつつも、やっぱり、俺もすごく気になるところで…。ばれないようにドアの隙間から2人の様子を観察した。
キョウスケさんの問いに、アキラさんが、うーん…って言いながら黙る。ドキドキしながら次の言葉を待った。
「まぁ、おっぱいが恋しくないって言ったら嘘になるけど…」
「だろー!てか実際、ノンケが男と付き合うって無理だと思うわー。俺も、男の子はやっぱ遊び相手になっちゃうしなー…、結婚とか保障が無いわけじゃん?お前、付き合ったら恋愛脳だから、同棲とかしちゃってるんだろうけど、早いとこ区切りつけないと、長くなるほどマサキ傷つくぞー」
なんか、ショックだったけど、キョウスケさんの意見の方がすごくしっくり来た。たぶん、俺が毎日思ってること。一緒に住めて幸せなんだけど、一生側に居たいって思ってしまったら、いざ別れる時、辛くて仕方なくなる。だから、毎日心に保険をかけていた。好きになりすぎないように。
勝手にショックを受けて、ボーっとしていると中からアキラさんの笑い声が聞こえた。
「あはは。まぁ、お前はそうだろーなー」
「どーいう意味だよー!」
「…マサキさぁ、これまで、結構しんどい人生送ってきてんだよ」
アキラさんの話に、ちゃかしていたキョウスケさんの笑顔を消して聞く。俺も体育座りでドアにもたれて話を聞いた。
「多分、他の人が人生全部で背負う辛いこと、一生分をマサキは今までで経験してんだよ。だから、これからのマサキの人生には幸せなことだけ起こってほしいなって思ってる。確かに、俺は今まで女としか付き合ったことないし、女とヤりたいって思うこともあるけど、それでマサキが傷つくんなら、したくないし、そこまでして浮気とかする価値ないな」
「アキラ君…知ってる…?今…すっごい恥ずかしいこと言ってるの…ホストのくせに何その恋愛脳…キモイ」
「うるさいわ!一途にホストも何も関係ないだろ!遊び人のお前にはわかんないわ!」
「わかりませんよー!1人に絞るとか…考えらんないもん、俺。まぁ、お前がそう言うんだったら、俺は何も言わないけどさ。そこまで言って、結局女の子に行ったら大爆笑したるわ。そしてマサキは俺がもらうわ」
「いかねーし、やらねーわ」
立ち聞きを辞めて、こっそりトイレに行って、ベッドに戻った。初めて聞いたアキラさんの気持ちに、素直にめっちゃ嬉しかったんだけど…同時に複雑な感情がモヤモヤしてた。
アキラさんは、多分俺と付き合っているのは同情、とかじゃないって言うと思う。それでも、俺は、なんかアキラさんを縛りつけているような…そんな気になってしまった。モヤモヤしている内に、そのまま眠ってしまっていた。