「マサキちゃん、あんた、ノンケに恋してるでしょ」
アキラさんと付き合えることになって、アキラさんと同棲し始めてちょうど半年ぐらいが過ぎた頃。バーの仕事の最中、飲みに来ていたオカマバーの姉さんにいきなりそう言われた。ちなみに姉さんは俺が雇ってもらう前からの常連さんで、この前豊胸手術を終えたばかり。
いきなり言われて、ドキ。アキラさんはこのあたりの夜の仕事している人の中ではそこそこ顔が広いので、アキラさんと付き合っていることはキョウスケさんとマスターにしか話していなかった。
「なんでそう思うんですか?いきなりですね」
なるべく、顔に焦りを出さないように聞いた。
「間違いないわ。なんか、最近小奇麗になったし、髪も伸ばしてるんでしょ?こういう仕事しているとなんとなくわかるのよ。ノンケに恋している子は、女と張り合おうとするから、いきなり美容に気を使いだして、肌が綺麗になったり、女みたいに髪伸ばそうとするのよ。悪いことは言わないから、ノンケ相手なんてやめときなさい。しょせん女には勝てないんだから」
姉さんの言ってることは、ガッツリ図星で言い逃れできなかった。
アキラさんと付き合うようになって、俺は少し髪を伸ばしていた。髪を伸ばしているといっても、肩につくぐらいだけど。
肌も化粧水をつけたり、ボディクリーム塗ったり。男抱くのに楽しさなんてないだろうから、少しでも見た目とか肌触りとか良くしたらどうかなっていうあさはかな考え。
(言い逃れ出来ない感じ…、でもまぁアキラさんってのバレてないし付き合ってるってのもバレてないから…)
開き直って、片思いしてるって設定で話を進めることにした。
「まぁ、出来る限り付き合える可能性上げた方がいいし…てか、着々と体改造してる姉さんに言われたくないんですけど…」
「私はいいのよ!オカマだからね!ちょっと、神様が性別を間違えてこの世に産み落としちゃったんだから、私は正しい性別に戻ろうとしているのよ!でもマサキは違うでしょ?あんたは女になりたいわけじゃないんだから、やめとけって言ってんのよ。ノンケがオカマにちょっと惑わされることはあっても、男にガッツリ男として付き合うなんてありえないんだから」
正論…。姉さん達みたいに女になりたいわけじゃない。俺は自分も男として男が恋愛対象になる。
アキラさんと付き合って、半年。アキラさんの仕事のことは理解していたつもりだったけど、実際アキラさんが営業の電話とかアフターとか行くと、不安が大きくて…。いつ別れを切り出されてもいいように、自分の荷物は増やせないでいた。そんな不安を姉さんに見透かされたんだと思う。
姉さんの顔なじみが店に来て、話はそれ以上追及されなかったけど、俺の心はずっとモヤモヤしてた。
「マサキー!!久しぶりー!!!」
仕事の終わり間際。誰も居なくなった店の中に、アホみたいに明るい声で言いながら入ってきたのは、キョウスケさん。(俺の元彼。バイ。恋人のアキラさんとは高校時代からの友達)
その後に、すごく不機嫌な顔のアキラさんも入ってきた。
「マサキー聞いてよー!俺、今日ドタキャンされたのー!ひどくない!?やっぱ、女の子より優しい男の子の方が俺好きかもー!!マサキ!慰めて!今からホテル行って慰めて!!!」
「一人で行ってオナってろ」
夜の店には合わないキョウスケさんの大声にアキラさんが冷静につっこむ。いつものこと過ぎて、ツッコむこともなく、俺は片付けと次の日の酒のチェックを進めた。
カウンターの向こうでは、ぎゃあぎゃあ騒ぐキョウスケさんに呆れ顔なアキラさん。キョウスケさんがふざけるから、アキラさんもこんなんだけど、なんやかんやですごく楽しそうにしていた。
俺は、まだこんな距離感でアキラさんに接することが出来ないでいた。元々口下手なこともあり、付き合ってはすぐに捨てられて、を繰り返していたから…。特に、アキラさんはノンケだし…。どう接したら正解なんだろ…、どう言ったら楽しんでくれるかな?そんなことをやっぱり考えてしまっていた。
(アキラさんは、俺と一緒にいて、楽しいかな…後悔していないかな…)
付き合えたってことは嬉しかったんだけど、そんな気持ちがずっと心の中にあった。