「はぁー、終わった終わった」
「お疲れさーん」
本日の業務終了、これで日給8000円。
比較的楽だったし、やっぱり綺麗になったのを眺めると心なしか気分がよかった。
「さーてと、それでは飯に行きますか!」
「おう!場所は?」
伸びをしながら楽しげに言う明智君につられるようにして聞くと、彼は新宿っす!と言って東京駅から中央線で新宿へと移動した。
行ってみると定食屋のわりには綺麗な店構えで、それでいて価格もリーズナブルでどれも美味そうだった。
「今日はおごりっすから、なんでもどうぞ!」
「ははは、それじゃ遠慮なく」
いらっしゃいませの挨拶とともに爽やかな風貌の定員さんがお水を持って来た。
「おう、おつかれ」
明智君が挨拶するとその店員さんは一瞬ぎょっとして、それからすぐに二人の談笑が始まった。
俺は腹が減っていたのでお構いなしに、メニューを一人黙々と眺めていた。
「決まりました?」
「うーん……。野菜炒めにしようかな」
悩んだ挙句、最近の野菜不足を考えて野菜炒めにしようとしたところ、
「駄目っすよ!」
と、明智君がいきなり俺の持つメニューを奪い取った。
「センパイはちゃんと食わないと!だからそんな細いんですよ?!」
「……は?」
俺が突然のことに一人唖然としていると、明智君はぶつぶつ言いながらメニュー眺めている。
そして、
「俺、しょうが焼き定食ね。あと、レバニラ定食一つ」
「は、はい。って、それで大丈夫なのか?」
爽やか店員さんは俺に気を使ってか、ちょっと戸惑い気味に聞き返してくれたが、
「おう!」
と意気揚々と明智君は返す。
おーい!と突っ込みたかったが、彼の予想外の勢いに俺は言葉が出せずにいると、
「か、かしこまりました」
そのまま俺と店員さんはなんとも言えない苦笑いとアイコンコンタクトをかわして、オーダーを伝えに奥へと入っていった。
「今の、俺の高校からの友達なんっすよねー」
「……」
そんな紹介を無視して、俺はじとーっと明智君を見つめる。
「俺に負けず劣らずのイケメンでしょ?でも最近彼女ができたらしくてー…、
って、センパイ……?どうかしました?」
「……」
やっと俺の視線に気づいた彼は、遠慮がちに聞いてくる。
が、俺は変わらず無言で見つめ続けた。
「いやー、俺のほうがカッコいいからってそんな見つめないでー…、
って、すみません、冗談です」
「俺には選択権すらないのか?」
低い声でぼそりと言うと彼の表情がまるで石化したように固まり、次の瞬間ガタッと席を立って「すすすすみません!」と勢いよく謝ってきた。
まわりの視線が一気に集まった気がして、かなり恥ずかしい。
「ば、ばか!すわれよ!声でけぇ!」
俺は慌てて小声で制すると、なにやら彼なりの言い訳を始めてきた。
レバーとニラの栄養がなんちゃらとか、味も美味しいだとか。
「あー!わかったわかった!ありがとう。気を使ってくれて」
「あ、ははは。いえ……」
明智君は頭をぽりぽりかきながら沈みがちに、また一つ頭を下げた。
実直……というかちょっと間抜けなその姿に、俺はぷっと吹き出して、
「よかったな、俺がレバニラ好きで」
「え?!マジッすか!よかったー!俺も好きです!」
そう言ってあげると、ようやく表情が明るくなって前のめりに迫ってくる彼。
「嫌いな奴も多いけどな」
と言って頭を小突いた。
でも実際好きだったのは本当だったし、何より俺のことを気遣ってくれたのことだから嬉しかった。
いってーと言う姿を見ながら、クスクスと笑いあう二人。
後にその爽やか店員さんいわく「傍から見てると、お前らまるで恋人同士みたいだったぞ」という、末恐ろしい感想を頂いてしまったのだった。
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コメントありがとうございます。モチベーションがあがるので嬉しいです。
相変わらず、なかなかエロいところまで行きつかなくてすみません。
気長にお付き合いいただければ幸いです。