トイレに行くと、誰も居なかった。
これ幸いと一人で小便器に向かって用を足していると、後ろから聞きなれた声がした。
「あんれ?けんたぁー!元気かぁ?」
喜一だった。
面倒なのが来たと思いすぐに自分のモノを仕舞うと、ふらりと喜一が俺に近づいてくる。
「いや、近いから」
「なんでー?近づいたら駄目かぁ?」
と酔っ払った喜一が俺に抱きついてくる。
喜一も見た目はチャラいがそれなりのイケメン。
スタイルも良いし、何より俺と対照的でオープンな性格が好印象で慕う人は多い。
なぜかそんなモテ男に、俺は弄られ役として重宝されていた。
「重い!うざい!離れろ馬鹿!」
さっきのこともあってかちょっとイライラしてた俺は冷たく突き放すと、ちょっとムッとしたのか喜一が、俺の腕をぐいっと引っ張った。
突然のことによろめきながらトイレの奥側へと雪崩込む。
「冷たいなぁ。なに、ちょっと席離れたからって嫉妬?かわいいなぁ、健太君は」
と言って俺の頭を撫でてくる。
酔っ払うといつもこれだ。ベタベタして、俺をどこぞの女子扱い。
「気安く触るな、アホ」
俺が喜一の身体を押し退けてトイレを出ようとした時だった。
さっきよりもさらに強く個室へと引き寄せられ、一瞬何が起こったのかわからないままに、
ばたんと勢いよく扉を閉められた。
二人だけの密室。距離が近い。
「あの隣のやつと何話してたの?」
「は?」
いきなりすぎて意味が分からなかった。
喜一の視線がやけに冷たい。
「俺、マジ健太のこと好きなのになぁ。酷いなぁ」
そう言いながら、今度はぐすんと子供のような泣き真似をする。
酔っ払いのやることはようわからんと少し呆れながらも、
「はいはい、俺が悪かった。ごめんごめん」
とちょっと優しく返すと、パッと笑顔に変わってまた抱きついてきた。
今日はいつも以上に酔っ払っている。
「久々にお前と飲めて、俺は嬉しいよぉ」
とへらへら言いながら、俺にキスを迫ってくる。
「良い加減にしろっ!」
俺は喜一の頭をがしっと抑えて、隙をついて扉を開けて個室の外へと脱出した。
するとそこには男が一人、小便器で用を足していた。
「か、金澤……?」
ふと目が合えば、よりによってこの男。
後方ではお構いなしの喜一が、一人便器の蓋に座っていじけている。
「戻ってこないから心配してきてみたら、そういうことだったんだな」
こっちを見ずにちょっと冷たく言い放つ金澤の声に、俺の苛立ちは増した。
「そういうことってどういうことだよ。この酔っ払いはいつものこと」
「ふーん……」
まただ。こいつの目で見られると、変な感じになる。
「まぁ、俺はそういうの偏見ないけど」
「は?何が?お前、絶対勘違いしてるだろ」
俺がむきになって返すと、金澤は用が済んだのかさらりと交わして、そそくさと手を洗って出て行った。
「んー?どうしたー?」
眠そうな声で聞いてきた喜一にうるせぇ!とだけ返して、俺も追いかけるようにしてトイレを出た。
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コメントありがとうございます。
あまりサクサクとまとめられないうえに大してエロくなくてすみません…。
目的に合わせて読んで頂ければ幸いです。