俺は都内の大学に通っている。
身長は170センチくらいで体重は平均よりちょっと足りないくらい。
見た目は普通だけど、自分の性癖のせいもあってか他人には優しく接する。
差別とかされて虐げられる辛さはよく知ってるから。
でも正直なところ、自分を偽って他人と接するのは疲れる。
だから、サークルには面倒くさいから入ってない。
飲み会とかも極力断る。参加してよかったことなんてほとんどない。
恋愛話や遊びの話、やれダーツだカラオケだボーリングだ。
レポートが終わらなくて、流行のエナジードリンク飲んで朝まで頑張っちゃいました。
なんてどっちを向いても似たような自慢話。
(……くだらない。)
心の中ではそう思いながらも、いざその場面に遭遇したらテキトウに愛想よく相槌を打つ。
そう、その日は珍しく飲み会に参加した日だった。
俺とアイツが出会ったのは……。
「かんぱーい!」
居酒屋の団体席で、男女が楽しそうに手にしたグラスをぶつけ合った。
ある男はぐいっと一気飲みして酒に強い変な男らしさをアピールをし、
その姿を見て、飲みすぎちゃ駄目だよ?などと言っては母性をアピールする女。
そんなことはお構いなしに早速べらべら話を進める男女。
その席にはざっと20人くらいの男女が入り乱れて居た。
俺はなるべく目立たないように隅のほうの席を陣取った。
となりにはお調子者の友人、喜一が居るから幸いだ。
いや、そもそもこんな大学の合コンなどという席に連れてこられたきっかけを作ったのも喜一だから、
幸いというのもどうかと思ったが、とりあえず隣でテキトウに飲みながら相槌を打つ。
「おいー、楽しんでるぅ?」
もう酔いがまわってるのか、ふと喜一が俺に絡んできた。
「飲んでるよ」
俺は素っ気無く返すと、さっきまで喜一と話していた周りも俺に注目する。
「大人しいよね?えーっと……」
一人の女の子が俺に話しかけてきたが、名前が分からなかったのか言葉に詰っていると、
「けんたでーす!相田健太!」
喜一が代わって紹介してくれた。
「へぇー!よろしくね、健太君!」
何人かがテキトウに挨拶してきたが、正直どうでも良かったので同じくテキトウに返した。
だから、いつもこういう席で会った人の名前はよく覚えてない。
ただその日は違った。
一人だけ、俺に強烈な印象を残してきた男が居た。
飲み会が始まって、一時間くらい経ったころだろうか。
喜一がトイレに立って戻ってくると席替えだなんだと言ってどこかへ行ってしまい、
代わりに俺の隣には別の男が座ってきた。
背は座ってるからよくわからないが、喜一と同じ180センチくらいだろうか……。
何かスポーツをやっているのか、黒く短い髪の毛はワックスで爽やかにまとまり、
引き締まった健康的な体つきに、きりっとした男らしいその容姿は、
来るやいなや周囲の女達がざわめき、質問攻めが始まった。
名前は、金澤 蓮(かなざわ れん)と言うらしい。
芸名みたいだと思った。
こういうタイプは一匹狼みたいにぶっきらぼうに答えるかと思いきや、意外と愛想が良い。
(まぁ、こういうのが幸せな人生歩むんだろうな……)
と、心の中で毒づいた。
勿論、表情は穏やかに笑顔を作っているが、内心誰の話も耳には届いてなかった。
「なぁ、健太はどういう子がタイプなの?」
突然、その金澤に話を振られて俺は焦った。
こいつに自己紹介した覚えはない。
「へ?あの……」
「だから、タイプの子。聞いてなかったのか?」
ひっどーい!などというケラケラとした周囲のツッコミと共に、再び俺に注目が集まる。
「タイプって……。まぁ、優しい人かな」
いつもの調子で愛想笑いを浮かべながらテキトウに答えると、周りもへぇーっと愛想笑いで返す。
そう、いつものことだが結局のところ他人に興味なんてないのだ。
俺なんかには、と言ったほうが正しいか。
「普通だなぁ」
金澤が俺を見ながら言った。
俺の心の奥底を見透かしてくるかのような、不思議な目。
その視線に俺は思わず目をそらした。
「か、金澤君こそ、どういうのがタイプなんだよ?」
俺は話題をそっちにそらそうとして咄嗟に返すと、しばらくうーんと悩んで、
「健太みたいなやつ、かな」
と言ってきた。俺の頭は真っ白になった。
突然のイケメンの告白に、心の奥底に居る本当の自分が出てきてしまいそうになる。
「なーんてな、冗談だよ。あれ?ちょっと赤くなってる?」
なんて茶化してくるから、俺は色んな感情がいっぺんに噴出して思わず、
「最低だな。ごめん、トイレ」と残して席を立った。
ボケに対するツッコミにするつもりだったが、酷く冷たい言い方になってしまった。
「ちょーびっくりしたんだけど!」
「まじウケル!」「BLとかリアルにはマジ勘弁!」
と、下品な笑いと共に各々が盛り上がっていたのを背中で感じた。