「これが……」
ロッカーは衝立の右奥、暖簾をくぐった先に並んでいた。21番のロッカーに靴や着ていた服を入れ、レンタルの褌を開いてみると、それは想像していたものと全く違った形をしていた。
和太鼓の奏者が身につけるような、六尺褌を予想していたのだが、渡されたそれは手拭い生地で出来たマイクロビキニめいた代物だった。
あまり大きい方ではない、時彦の性器を覆い隠すのにも足りるかどうかといった前布からは、左右に紐が出ており、その片方が輪になっている。こちらに足を入れ、もう片方の紐を背中側の腰辺りで結ぶのだろう。
布地の少なさに絶句していたが、ずっと全裸でいるのも憚られた。左足を通し、右側から紐をたぐり寄せる。すると、足を通した輪が引き絞られ、股間とアナルをくすぐった。
精一杯前布を広げ、紐を結び終えると、時彦は姿見の前で様子を確かめる。
(うわ……)
どうにか性器は布の中に収めたが、上から僅かに陰毛の生え際が覗いている。ペニスが少しでも勃起すれば、頭がはみ出るのは避けられない。
後ろを向いてみると、股をくぐる紐は臀部の谷間に消え、ほぼ完璧に全裸だった。
普段ではありえない、扇情的な姿を衆目に晒すのかと思うと、時彦は鳥肌が立つのを感じた。
(こんな格好で、人の前に……)
先のことを考えて、性器が熱を持つ。時彦はタオルを持つと、2階へと足を向けた。
人が一人通れるほどの階段を上る途中に張り紙があり、天六が言っていた通り、鍵の付ける場所で自分のポジションを表すルールの説明があった。
時彦は左腕、つまりウケの位置にロッカーの鍵を結わえると、そのまま階段を上った。
2階はほぼ真っ黒な内装に、赤い間接照明がそこかしこに配された、妖しい雰囲気だった。
登ってすぐ、フロアの入り口には幾つかの椅子が置かれ、左手にトイレや手洗い場がある。だが、そんなものよりも時彦の目を引くものがある。先客だ。
時彦の叔父ほどの歳の男が、椅子に腰掛けたまま、階段側に向けて怒張したペニスをゆっくりと扱いていた。
男は気だるげな様子で時彦を見たが、自身と同じ左腕の鍵を見ると、興味を無くしたように、自慰に戻った。
時彦は男のそばをおっかなびっくりと通って、部屋の奥へと通じる黒いビニールの垂れ幕をくぐる。
ベニヤ板で区切られた、真っ暗な廊下に、部屋の入り口が四つほど開かれ、中から赤い灯りが漏れている。
手前の扉から部屋を覗いてみるが、中にはマットレスと枕、ローションとティッシュが置かれているだけで、他の客の姿はない。
隣の部屋を覗くと、ここは4人は寝られそうな部屋を、短いカーテンで区切ってあるだけだった。壁にはミラーが貼られ、不安げに上気した時彦の姿が映っている。
向かいの部屋を覗くと、ここはブラックライトしか照明がなく、最初は停電しているのかと思った。これでは、人が隠れても分かりそうにない。
最後に、一番奥の部屋へ足を向けると、そこは一人分の寝具が置かれ、扉がなかった。ここで事に及べば、濃密な絡みを後ろから見られる事になる。
部屋を一通り確かめたので、一度入口に戻ると、先ほどの男はいなくなり、別の二人組がそこにいた。
それどころか、椅子に腰掛けた中年の男の股間に、もう一人の屈強な男が顔を埋めている。
(こんなところで)
やや気後れしながらも、見ている時彦に中年の男が気付く。男は足の間にいる男の頭を掴むと、より強く股間へと押し付けた。
屈強な男は、むせ返りもせず、水っぽい音を立てながら頭をより深く前後する。すると、中年は呻きながら男の胸元を弄る。
「ああ、いいぜ。もっと、もっと強く啜って……」
「んむっ、むっ、んふ」
時彦の見る前で、二人の動きが激しくなる。盛んに響く水音に合わせて、中年の足が伸びる。
「いい、いい、いいっ!ああイくよイくよイくよイくっ!」
中年が男の頭に腰を押し付けると、満足げにため息をつく。男は少ししてから顔を上げると、そのまま中年と濃密なキスを交わす。
やがてキスを終えた二人は、時彦の前を通り、奥の部屋へと消えていった。
その頃には、時彦のペニスは布地を押し退け、表へと躍り出てしまっていた。