高校を卒業し、就職して一人暮らしを始めた俺はそれなりに楽しんでいた。
進学した友達と遊ぶ機会が減ったのは残念だが、会社の先輩や同期といるのも楽しかった。
だが、そんな一人暮らしは、1年程して終了した。
「いやぁ、わりぃなぁ…」
4月中旬の日曜日の夜。
高校の同級生であるヒロトが押し掛けてきたからだ。
「どうしたんだよ、急に」
「あのさ、彼女…いや、元カノ孕ませちゃってさ。まぁ…俺は育てらんないから堕ろしてって頼んだんだけど、彼女が産むから一緒に育ててって言いやがってさ。向こうの親やら俺の親やらが出てきて、もう…ね」
「…逃げてきたのか?」
「いや、きっちり言ってきた。俺は育てられないから、堕ろすための金は出すけど養育費は出せないって」
「それで?」
「まぁ…金出して親に家から追い出された感じ」
「大学はどうすんだよ」
「俺、特待生だし。あ、バイトして生活費は入れるからさ」
ニカッと笑うヒロト。
追い出すわけにもいない…か。
「お前は彼女いないの?」
「いない」
「なんで?」
その理由をコイツは知っているはずだ。
引っ越す日に、俺の想いを伝えたから。
「まだ…俺のこと、好きなの?」
やっぱり知ってた。
てか、暫く見ないうちに何か大人っぽくなったよな。
「タクミは一途だな」
昔のやんちゃなヒロトじゃない。
大人の顔をしていた。
次の日も仕事なので寝る時間になった。
シングルベッドに男2人。
少し狭い気がした。
「修学旅行の時も一緒に寝たよな」
ヒロトが目を閉じたまま話し始めた。
「お前がベッドにジュース零したからな」
「そう…だったな」
なんで向かい合うように寝てしまったんだろう。
緊張して眠りづらい。
「タクミ、目ぇ閉じろ」
「あ、ごめん」
つい顔を見つめてしまった。
俺は恥ずかしくなりながら目を閉じた。
「明日、朝飯作ってやるから」
「ありがと」
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやs…」
途中まで言って、俺は呼吸と心臓が止まった…気がした。
優しく頬に何かが触れたから。
それがヒロトの唇だとすぐに分かった。
「ヒロト…?」
「サービス。おやすみ」
「ぁ…うん」
それから暫くは眠れなかった。
続きます