「めっちゃ感動しましたねぇ!」
映画館を出ると、慶一君は来たとき以上に嬉しそうにしてはしゃいでいた。
実際、テレビや雑誌で話題にもなっていたとおり、とても良い話だった。
最初は繋がれた手にドキドキしていたが、いつの間にかその嬉しさと同じくらい内容に夢中になっていた俺は、
「そうだね、最後はやっぱりハッピーエンドがいいね」
と返し、面白かったことは勿論、それ以上に彼の嬉しそうな姿とが嬉しくて、思わず顔が綻んでしまった。
彼も満足げに笑うと、何かを思い出したようにして提案してきた。
「あ!ちょっと遅いですけど飯に行きましょうよ!」
時間は3時を過ぎた頃。
俺も腹が減っていたので、ちょっと遅めの昼食にすることにした。
慶一君がよく行くと言うラーメン屋にいき、その後一息つこうとカフェへと向かった。
……。
そのカフェは繁華街の中心からちょっとだけ離れたところにあった。
店内は離れたとはいえ街中にあるにも関わらず、落ち着いた雰囲気だった。
カウンター席が数席にゆったりとしたテーブル席が4つ程並んでいて、広めの窓から差し込む陽の光に照らされた草花が良い感じに飾りつけられている。
「へぇ〜、良いところだね?慶一君、よく来るの?」
そう聞くと、彼はちょっと照れくさそうにしてうなずいた。
「まぁ、大学の知り合いがここで働いてて……」
と言いかけたところだった。
いらっしゃいませ、という挨拶と共に、
「あ!慶一君!?」
小柄で可愛らしい女性の嬉しそうな声がこちらに飛んできた。
よぉ、と少しカッコつけて挨拶する慶一君は、普段とはちょっとだけ違う人に見えた。
見たところ、大学の同級生のようだった。
「いつもありがとう。もう、すっかり常連さんだねぇ」
ニコニコしながら言う彼女のその姿は、かなりの好意を持っているようにしか見えなかった。
一人蚊帳の外になってしまった自分を気遣ってか、慶一君は、
「あ、こちら……えーっと」
と紹介しようとしたところで、言葉が詰った。
俺は、キュッと胸が締め付けられた。
……そんな気がしたがそれをぐっと押し込めて、
「はじめまして、俺、慶一君のバイト先の知人の岡田と言います」
そう、自ら笑顔を作って挨拶した。
「あ、はじめまして!」
彼女はそんな俺に応えるかのように笑顔で挨拶を返してきた。
それは仕事なのか素なのか、それとも……。
「良いところですね。僕も喫茶店あちこち探してよく行くんですけど、ここは初めてで……。凄く素敵です」
「ありがとうございます!あ、立ち話させてしまってすみません、こちらへどうぞ!」
無言でいるのが怖いと思った俺は、適当に思ったことを口走っていると、彼女は少し慌てて席へと案内してくれた。
慶一君のほうをチラリと見ると、なにやらバツの悪そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
俺はなぜそうなったのかわかっていたが、そ知らぬふりして聞いてやると、
「い、いや、その……」
戸惑って取り繕うとする彼に、少しだけイラッとした。
ただそれが無理もないことは重々分かっていたので、取り立ててわめくこともなかった。
「可愛い子だねぇ……。ああいうのが好みなんだ?」
とだけいって、俺は鼻で笑った。
我ながら性悪だった。
ただ、少しからかってやらないとやっぱり気が収まらなかった。
「え、いや、彼女はそんなんじゃ!」
必死になって声が大きくなりかけた彼を見て、余計なことを言い出しかねないと思った俺は、急いで彼の口を塞いで、
「冗談だよ冗談!全く……」
と言ってふわりと笑うと、それに少し安心したのか、慶一君の表情には少し余裕が戻ったように見えた。