映画館に着くと、人がごった返していた。
繁華街にある大きなところだから無理もない。
若いカップル達中心に、いちゃつきながら楽しげに会話をしている。
「すっげぇ、カップルだらけですね〜」
何に感心しているのか、慶一君はまるで上京したての少年みたいに口を開けて辺りを見回してる。
正直、あまり居心地はよくなかった。
もちろん男友達同士でいる人たちもいるにはいるのだが……。
「あまり目立たないようにしないとね」
俺はぼそっと呟いた。
それに対して彼はちょっと笑って、
「春さん、気にしすぎですよ」
と言いながら、俺の肩をポンと叩いた。
俺は「確かになぁ……」と思いながら、気を取り直して今日観る映画のチケットを取りに受付へと向かった。
以前話をしていた純愛物なだけに、周囲のカップル率がぐっと上がった。
待っている間二人で他愛もない会話をしていると、近くで一緒に並んでいた女性3人グループがこちらを見ながら何かを話している気がした。
「ねぇ、あの人マジかっこよくない?」
「あ、思ったー!誰かに似てるよね!」
「え〜?どれどれ!?キャーホントだ!」
気のせいではなかった。
(声がでけぇよ……)
俺は正直、女性のそういうところが苦手だった。
嫌いではない、ただの苦手意識。ということにしてはいる。
もちろん男にだってそういうところがあるし、それが女性の全てではないのは分かるが、なんというか、生理的に腹が立つ。
男を馬鹿にするくせに、媚を売る。
一人で何でもしたがるくせに、都合の良いときだけ頼る。
きっと、今騒いでる連中は少なからず当てはまるはずで、そのうち俺のことをなんだかんだ好き勝手はやし立てて……。
「――……んさん、春さん!?」
一人心の中で悪態ついていると、慶一君から顔の前で手を振られてハッとなった。
「顔が怖いことになってますけど、俺なんか変なこと言いました……?」
「え!?いやいや、違う違う!ただ……」
言葉に詰った俺を、不安そうに覗き込んでくる。
その様子がいたたまれなくて、耳打ちするようにして事の経緯を説明した。
「……」
彼はしばし沈黙して何かを考えているかと思うと、突然ぐっと俺の耳元に顔を近づけてきた。
そして、慶一君は一言、低く囁いた。
「――俺は春さんが好きですから、大丈夫ですよ」
俺は思わず赤面した。
その様子にククッと堪えながら笑っている。
普段なら怒るところだが、このときはもうただただ嬉しく、そして恥ずかしかった。
冷静さを取り戻しつつ、チケットやつまむものを買って席へと着く。
そんなに広くはないので全体を見渡せるよう、一番後ろの真ん中あたりを選んだ。
すぐに映画は始まって場内は薄暗くなった。
ふと横目で彼を見ると、スクリーンの光に照らされた彼の端正な顔が見え、ドキッとした。
(なんでだろう……、いつもより、距離が近い気がする)
その視線に気がついたのか、慶一君もこちらを見て笑うと、そのまま俺の手を握ってきた。
「ここなら、こうしててもバレないですよね」
俺にしか聞こえないように言ってくる。
温かい手のぬくもり、ほんの少しだけ汗ばんでいた。
全く気持ち悪さはない感触に、初めての夜の出来事が蘇った。
勝手にエロいことを妄想した俺は心臓を高鳴らせながら、あそこも硬くさせてしまい、自己嫌悪に陥ってしまった。
(純愛映画を、不純な気持ちで観てしまい申し訳ございません……)
俺は心の中でそう、映画を作った人に謝罪した。