それから数分後。
狭いベッドに二人。隣にはあこがれの先輩が寝ている。
自室のクーラーはつけていたものの、やっぱり身体は火照り、緊張してなかなか寝付けないでいた。
「眠れないのか?」
そんな自分に気づいたのか、先輩が声をかけて来た。
「え、えぇ、まぁ……」
「ごめんな、わがまま言って」
俺の返事に先輩は申し訳なさそうに言ってくる。
「別に、そんな気にしてないです」
その言葉に、先輩の緊張感も少し取れたような気がした。
「昔はこうやって、弟と一緒に寝てたんだよなぁ」
そういって少し距離を詰め寄られる。
「小さい頃、夜になるとよく泣いててさ。
俺がこうやって慰めてた」
俺の頭に、弟にしていたことと同じようにぽんぽんと手を置く。
幼い頃に記憶していた久しぶりのその感触に、少しはがゆさを感じた。
でもそれは、決して嫌な心地ではなかった。
「家族みんな、仲良くってさ……。みんな、明るくて、楽しそうで……」
(……先輩?)
呟く声色がいつもと違う。
「俺があのとき、一緒に連れてってやれば……」
気づけば、俺の頭に置いてる手が少し震えていた。
「はは、情けないよな。こんな大の男がさ、まじ、最悪……」
先輩は笑いながら言ってくる。
でもそれは、絶対に無理をしていた。
俺は体勢を変えて先輩のほうを向くと、そこには今にも泣き出しそうな顔があった。
(――ッ)
胸が痛くなった。
先輩はずっと、カッコイイ先輩として頑張っていたんだ。
「先輩は……情けなくないですよ」
どんなときもずっと一人で頑張っていた。
でもだからこそ、誰にも言えないことを一人で抱え込んで。
悩んで、責めて、苦しんで……。
思えば思うほど、居た堪れなかった。
「はは、ありがとな……」
そういって、また力のない笑顔を作る。
俺は一言、静かに言った。
「泣いてください」
その言葉に、先輩の表情が固まる。
「無理しないで、ください。
先輩は、悪くない。悪くないです」
無言のまま、目を瞑って、必死に堪えている。
こんな後輩の前で泣くなんて、やはりどこかプライドが許さないのだろう。
俺は先輩のそんな姿に、ぐっと笑顔を作って、
「これが、約束の命令です。さっき言ったやつ。
とびっきりの命令してやるって。だから、」
「……っ」
堪え続ける先輩に、思わず俺も涙しそうになりながら、それでも俺は笑顔で、安心させるように言った。
「泣いてください、思いっきり。約束の、後輩の命令には……?」
いつぞやの、先輩からのものに似た問いかけをした。
先輩はハッとなって目を見開く。
そして、俺のことをがしりと抱き寄せて、震えながら「ぜったい、ふくじゅう……」とつぶやき、泣きだした。
きっと今まで、ずっと堪えてきたんだと思った。
その全てがこみ上げ、溢れ出るようにして泣いていた。
先輩の温もりを感じて、俺もそっと先輩を抱きしめた。
……。
どれくらい時間が経っただろうか。
先輩はいつの間にか泣き止み、静かになっていた。
俺は先輩のぬくもりを感じてうとうとしていると、
「……ティッシュ、ある」
鼻声になりながら、俺に聞いてきた。
急に現実に戻され、枕元にあった箱に手を伸ばし渡す。
さんきゅ、と言いながら鼻をかみ、先輩からではゴミ箱に届かないと思い受け取ろうとすると、そのままグッと手を引き寄せられた。
「見たな……?」
一瞬何のことかわからないでいると、先輩はそのまま顔を近づけてきてニヤリと笑うと、チュッと音が鳴るようにしてキスをしてきた。
「なっ、なに」
俺はいきなりのことで脳内真っ白になりかかっていると、
「俺の泣き顔、久々に誰かに見せたわ。まじ、ないわ」
そういって、先輩は笑っている。
「だからって、キスって……」
「したくなった」
そういって、またキスをしてくる。
今度はもっと深いものだった。
温かく濡れた舌が、ぬるりと俺の口内へ入ってくる。
「んっ……んっ」
ちゅ、ちゅくちゅく。
卑猥な音が鳴り響く。
「せ、せんぱ…ぃ」
「なに?」
呼びかけると、先輩は顔を離す。
離れ際、互いの唾液が一本の線となっていた。
「や、やめて、……」
「嫌だ」
眠気半分、心地よさ半分でまったく力が入らずに抵抗すると、はっきりと断ってきた。
さっきまで泣いていた先輩とは違い、とても男前な先輩に戻っていた。
「俺、やっぱ、お前のこと好きだわ」
そう言って俺の腰をグッと引き寄せ、また気持ちの良いキスをしてきた。
俺はもうギンギンに反応していたが、驚いたことに先輩の股間も硬く、熱くなっていた。
俺がそれに気づいたことに先輩は感づくと、さらにグイグイと下半身を主張するように押し付けてきた。
お互いの熱く硬いもの同士がぶつかりあい、服の摩擦が股間を刺激する。
息が荒くなり、声にならない声が漏れた。
「なっ……あ、んん、せんぱっ、だめ、いっ」
「お前のこれ、すげぇ熱くてヤバ……」
口元は息が漏れる合間をぬうように激しく口付けられる。
「気持ちいいんだろ…?ほら、すげぇビクビクしてる」
先輩はとてつもなくエロい顔でこっちを見つめ、俺の股間に手を伸ばす。
「あ、んんっ……」
俺の表情にふっと笑うと布団を剥いで、先輩は俺に跨った。
手際よく服を脱がされると同時に、先輩も全裸になる。
俺は憧れのその素肌に我慢できず、手を伸ばした。
それは温かく、うっすらと汗ばんでいる。
「なに、どうしたの?」
先輩は分かっているくせに、意地悪く聞いてきた。
「くっ……」
「正直に言えよ、ほら」
身体同士がつくかつかないかくらいのところで、俺の耳元へ息を吹きかけながらつぶやく。
「あ、んんっ」
俺は震えながら、先輩に言った。
「先輩の身体……欲しい、です」
「よく言えました」
満足そうに頭を撫でてくると、そのまま跨りながら隆起したアソコを俺の顔に近づけてきた。
夢にまで見た先輩の大きくて立派なモノ。
少し黒くて、だらりと重量感のあるそれを、特に命令されるわけでもなく、俺は本能のおもむくままに口へ含んだ。
くちゅくちゅ、と濡れた音を発しながら、ときおりアイスをなめるようにして先を味わう。
先輩の先から特有の粘液が溢れてくるのを、絡み取るにして舐め取ると、
「ううっ」
と身悶えながら、腰を動かす。
俺はその表情を見逃さずに、より激しく口を動かす。
先輩は徐々に呼吸が激しくなっているかと思ったら、いきなり俺の口から先輩の股間を離して、
「待った、イキそう」
とハニかみながら言ってきた。
俺は逃げた先輩のそれを追いかけて、口に含んだ。
「にはしまへんよ(逃がしませんよ)」
含みながら言うと、その口の動きの感触に先輩はくすぐったいと言いながらも、大人しくなった。
俺は先輩のはにかむその顔を上目遣いで見つめながら、舐める。
「お前、エロ過ぎ」
俺の頭を撫でながら、愛おしそうに言う。
ちゅ、くちゅくちゅ。
初めてのことでよくわからないけど、それでも一心不乱に気持ちよくなって欲しいと、ただそれだけでしゃぶり続けた。
喉の奥まで含んだり、舌先でちょこちょこ突いたり、時折、玉のほうを口に含んでみたり。
そして、手を添えて色々なぬめりを利用して、一気にしごき始めた。
「うっ、はぁ、あ!」
先輩は一気に感じ始めたのか、自然と腰を動かし始める。
そして……。
「はっ、や、やばい、いきそっ!」
その言葉にまた上を見ると、熱を帯びた先輩と目が合った。
「……っ、くっ」
瞬間、先輩は勢いよく果て、口の中にしょっぱいような、苦いような男の香りが広がった。
「んん……」
どうして良いかわからないでいると、先輩はすかさずティッシュを持ってきて吐き出すように言われた。
見えないようにして吐き出すと、
「どう、俺の味?」
などと暢気に聞いてくる。
「最悪です。涙の味?」
と意地悪く返した。
先輩は「おいっ」と膨れながら、俺をがばっと抱き寄せて、キスをしてきた。
「お前もイカセてやる」
と、至近距離のその格好いい表情にすでにいきそうになっていると、先輩はあたたかいで俺のあそこを優しく、時折すこし乱暴にまさぐってきた。
「あ、あぁ……」
息が漏れる。
それを塞ぐかのようにして、また深く下を絡ませてくる。
「んっ……んっ……」
くちゅくちゅと卑猥な音。
キスの合間に俺を見つめながら、
「可愛いな、お前の感じてる顔」
と男前な表情で決めてくる。
心がそのたびに痛いほど、高鳴った。
「先輩は、かっこい、んっ……」
最後まで言わせてくれない。
また口付けをしながら、股間に心地よい刺激を与えてくる。
そして意識が飛びそうになると、先輩は意地悪そうに微笑みながら、
「俺のこと、好き……?」
と聞いてくる。
先輩の熱を感じながら、こくっと一つうなずいた。
「たまに弱音はいても?」
少し泣きそうな表情で聞いてくる。
「それでも、先輩が好きです」
真っ直ぐ見つめて、そう返すと先輩はニコッと笑った。
「ありがとう……」
とても素敵な笑顔だった。
今までどこか無理したものは全く感じず、意思が強くて、優しくて、全てを俺に見せてくれたような気がした。
それに追い討ちをかけるかのような先輩の熱い唇と、あたたかい手の感触が心地よすぎる刺激として相まって、
「……ッ」
俺は果ててしまった。
先輩はしばらくそれで遊ぶかのように扱って、そのままティッシュで綺麗にしてくれた。
お互い無言だけど、抱き合って身体の温もりを感じながら、好きな気持ちを確認しあう。
それはそれは夢のような、一夜だった。