イケメン店員さんとの出会いから一週間くらい経ったある日。
自分はどうしても彼に会いたくなって、定食屋へと向かった。
時計を見ると、22時。その店は23時までやっている。
外から様子を伺ったが、彼の姿は見えない。
(今日はもう帰っちゃったのかな…?)
でも、腹も減ってるしと思って中へ入ると、
店長らしき人や他のバイトらしき人からいらっしゃいませ〜の声。
あまりきょろきょろするのも怪しいと思い、この前座ったあたりへ掛ける。
メニューを見ながら悩んでいると、いらっしゃいませ!の声とともに水が置かれた。
聞き覚えのあるその声にハッと思って目をやると、この前の彼だった。
彼は一瞬、何か?という表情をしてすぐさまパッといつもの爽やかな笑顔で、
「あ、先日の!また来て頂いたんですね?」
なんとも人懐っこい感じで声を掛けてきた。
「あ、はい。覚えててくれるなんて、す、凄いですね?」
「えぇ!笑顔の素敵なお客さんだなぁって!」
あははと屈託の無い明るさで言ってくる彼に、自分の心臓が高鳴った。
「そ、そんな…」
言葉が出ない。男相手に顔が赤くなっていないだろうかと心配になった。
すると別のテーブルからオーダーが入ってきたので、
「メニュー決まったら、またお声掛けくださいね!」
といって去っていった。
何だかほっとしたような、寂しいような……。
とりあえずメニューを決めて、タイミングよくまた彼を呼んで注文した。
「レバニラ炒め定食をお願いします」
「はい、かしこまりました。僕も好きなんですよね、これ!」
「そ、そうなんですか…」
今日はやたらと絡んでくる?いや、接客が丁寧なだけ?
話をはずませたいのに、余計な詮索が頭を駆け巡った。
彼は話の合間に厨房へと注文内容を投げている。
「この辺に住んでらっしゃるんですか?」
「はい、家はすぐそこなんですけど…、一人暮らしだから自炊が面倒で」
不意に聞かれた質問に、照れ隠しな笑いを交えて返すと、
「わかります。僕も今は一人暮らしなんですけど、殆どまかないですもん」
彼も一緒になって笑った。なんとも不思議な感覚だった。
あんなに緊張していたのが、いつの間にか心が温かくなっていくような。
「一人暮らしってことは、学生さん…ですか?」
「えぇ、早稲田のほうに」
確かにちょっと大人びて見えるけど、まだ若さも残っている。
凄いなぁ〜なんて一人で感心しながら、ふと
「あ。こんな話してて大丈夫ですか!?」
つい自分が引き止めてしまってるように思えてそう言った。
「え?あぁ、大丈夫ですよ!この時間は落ち着いてるので」
言われて周囲を見渡すと、自分以外のお客はほとんどいなかった。
見えていないのにも程があるなぁと思いながら、彼のほうへと向き直ると、
「そういえばこの前、僕と目が合いませんでした?」
と言われ、ドキッとした。
あれは妄想の話であって、実際にはただの変人だ。
「そ、そうでしたっけ?」
彼は気のせいかなぁと呟きながら、突然くくっと笑い出した。
そんな姿を見た自分の顔に、思わずハテナが浮かんだらしく慌てて、
「あ、すみません。なんだかキョトンとされてて、可愛らしい顔してたんで」
と謝ってきた。
そんなイケメンのころころ変化する表情にいちいちドキドキさせられる。
「そんなこと…」
「そ、そうですよね。こんなこと言われても嬉しくないですよね…。
すみません、調子に乗ってしまって」
彼は申し訳なさそうな顔で言ってくる。
「あ、僕、平田って言います。すみません、一方的で」
「いえいえ!全然です!楽しいですよ!いつも独り身だから」
正直、ある意味複雑な気持ちではあったものの、
悪い気はしてなかったので、そう笑顔で返した。
平田と名乗った彼は、よく見るとネームプレートに「平田慶一」と書かれていた。
「あ、ありがとうございます!僕もこんなにしゃべりやすいの初めてかも」
ちょっと照れたようにはにかんだ表情で、彼は頭をかいた。
その仕草でちらりと見えた、彼の引き締まった男らしい二の腕、
そのTシャツの奥に見える景色がとても色っぽかった。
何気なく下のほうへと視線をずらすと、チノパンの中央が少し盛り上がっている。
(で、でかいのかな…)
そんな馬鹿な妄想をしていると彼は店長から呼ばれ、
それからまもなくして料理が運ばれてきた。
言っていたとおり、それはとても美味しかった。
彼はその後、閉店準備のために洗物や掃除などで忙しく動き回っていて、
まったりと話はできそうもなかった。
「ご馳走様」
満足した自分は、店内に聞こえるようにして言って会計を済ませようと
席を立つと、彼は率先してレジのところまで来てくれた。
「ありがとうございます。700円です!」
「はい、凄く美味しかったです」
何も考えずに、すらりと素直に言葉が出た。
すると彼は満面の笑みで、
「ですよね!良かった!またお待ちしてますね!」
そういう彼は、もし尻尾が合ったらきっとぶんぶん振ってるだろうと思って、
クスクスと笑ってしまった。
「……?」
「あぁ、いや、面白いなぁって」
「お、面白いですか?いつもつまらないって言われてるんですけどね。
だから彼女もできないんだって」
そう恥ずかしそうに言う彼にドキッとした。
全く期待してなかった自分の気持ちが、
どんどんと膨れ上がっているのを感じた。
(……彼女、いないんだ)
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コメントありがとうございます。
Hな掲示板なのに、なかなかエロいところまで持っていけずすみません。