「いいの…?」
「ダメなら最初っから誘わねぇし。それに『友達連れてきた』って言えば母ちゃん何も言わねぇし」
豪快に笑う山下君。
「隆文も来るだろ?」
「もちろん!中澤、変なこと訊いてごめんな。母ちゃん欲しいなら俺ン家のやるからさ」
「お前は馬鹿か!」
山下君がまた谷津君を軽く叩いた。
その光景の中に自分が入っていることが幸せで。
「ありがと」
嬉し涙を堪えて一言絞り出した。
深呼吸して気持ちを抑える。
「いや…本当に母ちゃんやるわけじゃねぇし…」
谷津君が照れた様子で返してきた。
「何泣きそうな顔してんだよ」
山下君がアハハと笑った。
二度目の深呼吸で何とか落ち着いた。
「嬉しくてさ。なんか、久しぶりにこんな雰囲気の中に入れて」
正直に言った。
「都会の学校はやっぱり冷たいのか?」
谷津君がズレた発言をしてきた。
「あっちはグループに分かれてたりとか、仲間外れがいたよ」
「グループには分かれてるけど、仲間外れとかはないよな?」
「イジメとか、うちのクラスにはないな」
2人の言葉が聞けて安心した。
「あ、ただ、他のクラスのヤンキーには気を付けろよ。たぶん転校生には絡んでくるから」
「わかった」
ちょっと不安要素もできた。
そして、何だかんだ話しているうちにだいぶ家の近くまで来た。
「もうちょっと行った一戸建ての貸家が僕ン家だよ」
「あの同じ形の家が並んでるとこか」
山下君が言った。
「そうそう。あそこの真ん中のとこ」
「じゃあ今度遊びに行こうかな」
谷津君が笑う。
「うん!今度遊びに来てよ!」
友達を呼ぶなんて何年振りだろ。
片付けとかなきゃ。
「俺ン家はこっち」
僕の家に向かう方とは違う道を行き、少し歩くとすぐに着いた。
大きな門があり、豪邸とまではいかないけど古く大きな家。
庭もデカい。
その隣にある二階建ての家を指差し「こっちが俺ン家」と山下君が行った。
そのまた隣にある似たような家が谷津君の家だそうだ。
「隣の家、でっかいね」
「あぁ…ばあちゃん家だよ」
山下君の声から元気が少し無くなった気がした。
「入れよ。母ちゃんいるけど気にしなくていいから」
ドアを開けてもらった。
「お、お邪魔します」
緊張して入っていく。
「お邪魔しまーす」
谷津君は慣れた感じだ。
「ただいまー。母ちゃん、友達2人連れてきたー」