それから少し時間が経って、練習は相変わらずけんた先輩と二人でやっていたが、けんた先輩がゆうすけ先輩のことばかり見ている気がして辛かった。俺は意地悪のつもりで、
「けんた先輩ってゆうすけ先輩と仲いいですよね。てか、けんた先輩最近変わりましたね。」そう言った。けんた先輩はそんなことないとはぐらかした。けんた先輩が誰を好きか直接聞いた訳ではない。けんた先輩の頭の中が誰のことで一杯なのか知らなかったが、俺でないことは確かだった。
ある日、サークルの同級生と焼肉に行った。話題は学校のことなど色々。ふと、けんた先輩の話題になった。ある一人が、
「けんた先輩て、最近変わったよね。なんつーか、ちょっかい出したくなるよね。でも最初は恐かったー。見た目可愛いのに近づけないオーラめっちゃ出てたし。」と言った。皆頷いている。
皆同じようなことを感じていたんだと思った。
その帰り、駅で全員と別れ一人でコンビニに向かって歩いていた。するとけんた先輩が反対方向から歩いて来た。
けんた先輩は急ぎ足で歩いて行く。俺には気づかず、一瞬見えた顔は泣いているように見えた。俺は声を掛けようと思ったが、すぐに行ってしまった。どうしても気になった俺は先輩の後を追い掛けた。
先輩は誰もいない暗い公園に入って行った。少しだだっ広い公園で、遊具の陰に消えた。俺は静かに近づくと、けんた先輩は声を押し殺すようにして泣いていた。
俺は正直、パニックになった。なんで泣いているんだろう。けんた先輩が泣く理由ってもしかしてゆうすけ先輩か。俺は遊具の反対側で声を掛けるべきかどうか迷った。
暗がりの中で見えるけんた先輩の背中は凄く小さくて、俺にできることなんて何も無いかもしれないと思った。でも、こんな先輩を見たのは初めてだった。
俺は思い切って先輩を呼んだ。
「けんた先輩」