続きです。
「べつに…。興味ないし」
女子に興味がないわけじゃない。
でも、付き合ったりはしたいと思わないのだ。
「ふーん。まぁ…兄貴分としてはどんな女も連れ込んでほしくはないからいいけどさ」
「あ、兄貴分…?」
「この際だから話すけどさ。お前、俺の死んだ弟に似てるんだ」
いきなり真顔で言い始めた。
「だからさ、一人暮らしってのが心配になってさ…」
何だ急に暗い顔して。
マジか?
マジなのか?
「俺、お前を見た瞬間、弟が目の前にいると思ったんだ」
「え、えっと…」
「一回でイイから、お兄ちゃんって呼んでくれないか?」
「え?」
「今日知り合ったやつにこんなこと言うの、変だって分かってる。でも、俺…」
泣きだしそうな雄輔。
より、ここは一肌脱ぐか。
「…お兄ちゃん。元気出して?」
なるべく可愛く喋ってみた。
俯く雄輔の隣に移動する。
「僕、お兄ちゃんの笑ってる顔が好きだから」
そう言った瞬間だった。
ガシッと抱きしめられた。
初めてのことだし、一瞬のことで心臓が異常な速さで鳴り始める。
「ダイちゃん…。ごめんな…」
耳元で呟くように言ってきた。
「ごめん…ッ」
僕も抱き返す。
人に抱きしめられるって、こんな気持ちイイんだ…。
「んでさ…」
「ん?」
「これ、嘘って言ったら怒る?」
顔を見ずとも、ニヤニヤしているのが分かった。
一瞬怒りがこみ上げ、すぐに静まった。
呆れてしまったのだ。
「怒ってる?」
抱きしめるのをやめる雄輔。
「べつに…」
なんでこんなに離れたくないと思うのか。
こんなこと言うやつなのに。
もっと抱きしめていてほしいと思ってしまうのか。
そんなことを思う自分に怒りがこみ上げてきた。
「怒んなよ。飯、作ってやっから」
「は?いつまでいるつもりだよ」
「んー、わかんね」
そう言いながら勝手に冷蔵庫を漁り始めた。
「何も入ってねぇな。買い物行くぞ」
「何もなくはないでしょ!」
「肉も野菜もほとんどねぇじゃねぇか。何作れるんだよ、お前」
「え、チャーハンとか目玉焼きとか…」
「買い行くぞ」
出て行こうとする雄輔。
「ちょっと待ってよ!」
嫌いな物買ってこられても困るし、お金出してもらうのも悪いから、ちゃんとついていくことにした。
近所のスーパーで買い物。
誰かと買い物なんて久しぶりだ。
「何が好きなんだ?」
雄輔が訊いてきた。
「ラーメンとチャーハンと…。あ、茹で玉子も好き」
「他には?」
「ハンバーグとか牛丼、さつま芋の天ぷらと…玉こんと肉じゃがとかかな」
「…嫌いな物は?」
「ゴーヤとかコーヒーとか」
「苦いのがダメなのか」
「あと、野菜が嫌いかな」
「じゃあ…どうすっかなぁ…」
僕の意見は果たして参考になっているのか。
野菜を見て悩み、肉を見て悩み。
なんか主婦みたいだ。
「量が多くても余らせちゃうよな」
肉を見ながら訊いてきた。
「毎日食うから大丈夫だよ」
肉なんて、焼いて塩コショウでオカズになるし。
「栄養を考えて食えよ…。野菜、食えるのは?」
「ニンジンと大根とじゃがいもとナスと玉ねぎと…」
「結構食えるのか」
「食えはするよ」
「じゃあ好き嫌いしないで食え」
そう言いながら買い物が進んでいく。
肉じゃがとサラダに使う食材を買っているのは分かった。
あとは…鶏肉とサラダには使わない野菜。
何を作るんだろ。
家に帰って5時くらいまで片付けをしてから米を研ぎ、また片付け。
そして、6時になって食事を作り始める。
鶏肉を切って、野菜を切って…。
手際良く進める雄輔に少し関心してしまった。
続きます。