俺は精子の染みを諦め、陽介のパンツを元の場所に戻し、床に付いた精子を軽く拭いた。
そして何も無かったかのように携帯を触っているフリをして、椅子にスタンバイ。
緊張で心臓が爆発しそうだ。
どうか陽介がまだ来ませんように……。
ざわめきが部屋の前までやってくる…。
汗が全身から吹き出すのがわかる。
ガチャ…と部室の扉が開いた。
「…あ、湯川サン。こんちわー」
水泳部の一年達が出て来た。
続く二、三人も俺に軽く挨拶していった。
俺が陽介の部活終わりを待つ間に、顔見知りになってしまった奴らだ。
水泳後の塩素の匂いが部屋に充満した。
水泳部は筋肉質が多くて、いつもは目の保養にしていたが、今は焦りで心臓がバクバクだ。
幸運にも、陽介の姿はなかった。
「おうー」
俺は精一杯の『いつも通り』を演じた。
一年達は雑談しながら自分の荷物のそばに行き、体を拭いたりしていた。
身体からしたたる水が、床に落ちた俺の精子の跡を目立たなくさせた。
俺が自慰をして射精した痕跡は、陽介のパンツ以外は安心できる程度に消えた。
「湯川サン」
一年の一人が話しかけて来た。
「ん…あ、何?」
「なんか元気無いっすよ?」
「ん?そうか?」
俺的にはいつも通りを演じていたつもりだった分、焦った。
「彼女にでもフラれたんすか?」
「女なんか居ねーから」
「じゃあ陽介先輩にフラれたんですか?」
陽介という名前に、ドキッ、と心臓が跳ねた。
「男同士だろうが!!」
そう言って笑い飛ばした。
一年達も合わせて笑った。
「いや、湯川サンと陽介先輩、ずっとくっついてるから、そういう危ない関係なのかなーと」
そう言って笑っている。
「ふふふ…陽介のケツは俺が初めに掘るからな」
「先輩、ゲイだったんすかー!!」
そう言って、奴らは胸とチンコを隠した。
「キャー、掘られるー!!」
そう言って一年達はおどけた。
「ぐへへへ、美味そうなケツがあるなぁ!!」
「ギャー、湯川サンがケツ狙ってるー!!」
「掘られたくなかったら、さっさと帰れー!!ぐへへへ」
「はーい」
一年達は笑い合いながら着替えを済ませ、奴らは帰っていった。