「弟がご迷惑をおかけして…」
これで何度目だろう。
兄が俺のせいで学校に呼ばれたのは。
「ちゃんと言って聞かせますから…」
毎回同じ言葉。
でも、兄貴が俺のことを真剣に考えてくれるのは、こんな時しかなかった。
帰り道。
二人で一つの傘に入る。
兄貴の肩は濡れていた。
「今日は何食べたい?」
「……」
当時の俺は14歳。
反抗期真っ盛りだった。
離婚して俺らは父に引き取られ、父の実家に引っ越した。
兄は18歳の無職。
学年末で大学に行くことを辞めたせいで進路が決まらなかったのだ。
祖父の介護もあり、なかなか職に就けないでいた。
「親子丼でイイか?」
「……」
「で、なんで喧嘩したんだ?」
「向こうが…突っかかってきたから」
「そうなのか。三年に絡まれても引かなかったのは偉いな」
笑う兄貴。
そっと頭を撫でてくれた。
「ただ、あんま無茶すんな」
「うん」
兄貴のことが嫌いなわけじゃない。
ただ、俺を見て欲しかった。
襖の隙間から隣の部屋を覗いた。
自慰行為に励む兄貴。
俺はその姿を見ながら自慰行為をした。
去年の夏の日。
兄貴が教えてくれた行為。
それ以来、兄貴がしてるのと一緒にするのが当たり前になった。
続く。