「俺、転校することになった……」
耳を疑うってのは、まさにこういう状況を言うんだろう。
この状況に脳がついていけていない。
「前からそんな話は聞いてたんやけど……昨日、それが確実に決まってしもうた…」
その声はただの音のようだった。俺の耳に響くだけ。
音はだんだんと弱くなり、小さくなっていく。
「…3学期まではおれるらしい……3年からは…他の学校や……」
そうか。コウスケは転校するのか。
そんな気はずっと前からしてた。
でも、また急なんだな。
他の学校ってどこだろう?
野球部強けりゃいいけど。
俺の脳はしだいに状況を把握して、回転を増していく。
「…すまん、ジュンキ」
見下ろすと、弱々しくて真剣な目がこっちを見ている。
脳は誤った方向に俺を導いた。
「なんでコウスケが謝るんだよ(笑)決まったことはしょうがねぇし。なんとなく、そんな気してた。お前って、いつも突然いなくなるからな(笑)まぁ、コウスケなら他の学校でも大丈夫だろ。それに、俺がどうこう言ったって、変わんないしな(笑)」
苦しい笑いを含んで俺は言った。
なぜ俺はいつもこうなんだろう?
相手の気持ちはわかってるのに、つよがってしまう。
コウスケが今俺になんて言ってほしいか、わかってるのに。
嫌だ。行かないでくれ。俺にはコウスケが必要なんだ。嘘って言えよ。
俺にはどうしてもそんな甘えた言葉が許せなかった。つまらないつよがりのせいで。
「俺は……俺は嫌や。転校なんかしとうないし、ひとりでランニングしても楽しゅうない……」
コウスケは立ち上がり、俺の肩をつかんで言った。
目の前のコウスケの痛々しい眼差しが俺にぶつかる。
俺は耐えられず、目をそらす。
「しょうがねぇよ。決まったことだろ……」
俺の声にも力がない。
沈黙がつづいた。
俺の肩をつかむコウスケの手が弱まり、すっと離れる。
「やっぱ俺……ジュンキのこと、ようわからん……」
コウスケがゆっくりと離れていく。
その背中は今にも消え入りそうだ。
俺は口を開いたが、声は出なかった。
ジュンキのこと、ようわからん
ジュンキのこと、ようわからん
俺の中で、それは何度も繰り返される。
俺だって、わからんよ……
気付くと俺は、公園にひとり取り残されていた。