おれはすごい偶然を感じながらも、やっぱり安心していた。
野球部なのに、怖くない。今おれは男と二人きりなのに怖くない。
しょうじだったら薄暗い中でもわかる。
おれが安心できる唯一の野球部員。
「あれ、けんじゃん。何してんの?」
「しょうじかぁ。びっくりした(笑)やめたテニス部の部室見に来たんだよ。おれこの部室出来る前にやめちゃったし。しょうじは?」
「おれは忘れ物。帰る途中で気付いてこんな時間になった。…てか、けん、高校受験したってほんと?」
と遠慮がちに聞くしょうじ。
「ん?あぁ、聞いたんだ。ほんとだよ。」
「なんでそのまま高校行かないの?」
「なんとなく、違う世界が見たくなったんだよね。それで。」
「今いる友達と別れるの寂しくないん?」
「まぁ、寂しいっちゃ寂しいかな。」
部室棟の外からの光がおれたちを照らす。
しょうじは何か言いたそうだった。
おれは正直、今同じ空間にいられるだけで良かった。
受験であまり考えないようにしていたが、おれはしょうじに会いたかった。
しょうじがおれを好きなのがわかる。もちろん友達として。
そしておれもしょうじが好きだった。そう確信できる何かがあった。
だがおれのこの感情は友情なのだろうか?とおれが考えていたところにしょうじが口を開く。
「おれ、けんのこと好きだったよ。」
「え?」
聞き返すまでもなく、しょうじはおれを抱きしめていた。