みなさんこんばんは。久しぶりにこの掲示板を訪れたら凄いレスの数で驚きました。みんな良いレスで本当にありがとうございます。「これ、エッチな方向に行くの?」というレスもありましたが、本当ですよね(汗)でも、徐々にそっち方面に向かっていくのでしばしお待ちを。(あと、1、2話?)では、お待ちかねの続きです。
それから後も隼人との関係はなにも変わらなかった。むしろ誰にも邪魔されない毎朝1時間弱の電車内での会話は、俺たちをより親密にしてくれた。今まで隼人は家庭の話をなかなかしなかったのだが、それも俺に話してくれた。隼人の両親は離婚していて、今は父親と一緒に暮らしていることや、一人っ子であること、今は一緒に住んでいない母親ともたまに連絡を取り合うことなど、隼人は辛い過去を淡々と話してくれる。俺はそれを聞いたとき、どう返事をしていいかわからずに困っていたが、それでも、そんな家庭の事情までを話してくれるほど、俺に信頼をおいてくれているのだいうステータスにもなって、少し嬉しい気もした。
さらに季節はめぐり、気づけば7月。連日猛暑でうだるような暑さの日が続いた。学校も終わって夏休みに入っても、俺と隼人は部活があるから遊んでなどいられない。どちらもレギュラーとして抜擢されていたのでなおさらであった。俺はまだ体育館という屋内だったからいいものの、扉の向こうからたまに見る野球部の練習は見てるほうが倒れてしまうんじゃないかというくらい、空気が揺らめく中で、必死に声を出して、球を追いかけて練習をしていた。
気づけば夏休みなどあっというまに終わって、全然夏休みを満喫することはできなかった。2学期に入り、校庭のイチョウが軽く色づき始めた10月の中ごろ、俺にとっては嬉しい事件が起きたのだ。
すっかりクラスメイトと親しくなったころ、突然、クラスの女子二人が俺のところに来た。
「ねえ佐藤くん・・・・・・」
「うん?どうしたの?」
「あのね、私と一緒の吹奏楽部の子がね、放課後話があるんだって」
「えっ!?」
「部活始まるほんの前でいいらしんだ。だから北館の屋上に行く階段にきてほしいんだって」
「え、ちょっと、そんな急に言われても・・・・・・」
「私は伝言係なだけだから。じゃあ、よろしくね」
すると俺の話も聞かず、二人は笑いながら帰っていった。
こんなシチュエーションは告白くらいしか思い浮かばない。もし違っていたら顔から火が出そうなくらい恥ずかしいことなのだが、その時はそう思った。それにしても、誰だか名前も言ってくれないなんて卑怯じゃないか。と思いつつ、心は軽く高揚していた。
そして放課後、クラスメイトの女子二人に指示されたとおり、北館の一番北にある、屋上へ上がるための階段の前に着いた。校舎は南館と北館と二棟あり、それぞれ三階建てで屋上がある。南館は開放しているが、北館の屋上は閉鎖され、階段を上った先にある扉は鍵がかけられていた。
俺はちょっと緊張しつつ屋上へ続く階段を上った。踊り場を折り返して振り向いたとき、階段の上のほうに一人の女の子が座っていた。俺の姿を確認すると慌てて立ち上がって、女の子特有のもじもじとした態度をしだした。
「あ、あのう、こんにちは・・・・・・」
「や、やあ」
見覚えのある子だった。たしか3組の子で、名前を鈴奈(スズナ)と言った。たしかに俺に話を持ちかけてきた女子たちといつもつるんでいる子で、休み時間になると2組まできて、俺の隣の席で3人でよく会話しているのを見ていた。そのクラスメイトの女子が彼女のことを鈴奈と呼んでいたので、名前だけは知っている。
そしてその容姿なのだが、とても可愛らしい子だった。背も小さくてストレートパーマをあてた黒髪はさらさらだった。恥ずかしそうにするしぐさとその顔がよく似合っていた。
「あ、私、咲本鈴奈(サキモト スズナ)って言います」
「あ、どうも。俺は佐藤翼です。名前は前々から知ってました。いつも横で3人会話してたからね」
すると鈴奈は急に顔を赤らめて、ほてった頬を両手で押さえた。
「聞かれてたんですね・・・・・・恥ずかしい。」
「いや、その・・・・・・ごめん」
俺はいたたまれなくなって、思わず後頭部をかいた。
しばらく沈黙が続いた後、鈴奈は意を決したように言った。
「あのう、前のバスケットの試合、見に行きました。佐藤くんのシュート、格好良かったです」
俺ももしかしたら、顔がほてって赤くなったかもしれなかった。急に体が熱くなった。
「ほんとに!?ありがとう。」
先週の土曜日、バスケットの練習試合が第二体育館で行われたばかりだった。他校を招いての練習試合だったから自分たちの部活の合間に見に来る生徒も多かった。そこに紛れ込んでいたようだ。
「・・・・・・あのう、もうわかってると思いますが、私・・・・・・」
彼女の顔がさらに赤くなっていく。
「私、佐藤くんのことが好きになりました。もしも、もしもでいいんで、友達からでもいいんで、付き合ってもらえませんか」
言い終えた後の恥ずかしそうな素振り、もじもじとした態度。純粋な女の子っぽくてとても可愛かった。もうこの瞬間にでも好きになってしまいそうだった。
「・・・・・・俺でよければ・・・・・・」
「え?」
鈴奈は驚いたように俺を見返してきた。
「まだ咲本さんのことあまり知らないから、友達からでもいいっすか?」
「それって・・・・・・」
「喜んでよろしくお願いします」
俺がそう言うと、鈴奈は満面の笑みをこぼし、「はい!」と元気な返事を返してくれた。
「そのう、よければ連絡先の交換とか・・・・・・」
「あ、ああ、もちろんです」
俺はつくづく気がつかない男だなあと思いつつ、赤外線でお互いの連絡先を交換した。その時、携帯の時計を見て、そろそろ部活が始まる時間だということを知った。
「やべ、俺、今から部活あるから。その、えーっと・・・・・・」
「あ、はい。大丈夫です。私も今から部活があるので・・・・・・」
「あ、そっか。じゃあ・・・・・・また明日」
俺がそういうと、鈴奈も元気な声で、「はい、また明日」といってくれた。
俺は手を振ると階段を降りた。三階の廊下には、偵察にきていた先ほどの二人がいた。俺の姿を見るや否や隠れようとするが、もはや遅い。
「おまえらなあ」
腰に手をあてて呆れた表情を作ると、目の前の女子達は苦笑しながら謝った。
「ごめん。・・・・・・で、なんて答えたの?まさか振ったんじゃないでしょうね!」
「どうせ部活でその話をするんだろ」
「そりゃあ・・・・・・もちろん」
その時、後ろから鈴奈も降りてきた。俺はもう一度、鈴奈に「じゃ」というと、体育館を目指してその場をあとにした。
それからはヒマがあればお互いにメールの交換をし合ったり、会える時は会うようにした。半ば鈴奈の女子に引っ張られるようにして、まず昼休みは一緒に食べるようになった。休憩時間も鈴奈が教室に遊びに来てくれて、女子友達2人も加えて話すことも多かった。鈴奈は吹奏楽部でフルートの担当だった。なんともお嬢様チックな感じで、もしかしたら本当にお嬢様なのかもしれないと思うこともあった。俺も初めてできた彼女だったから、とにかく嬉しかったのと、やっぱり喜ばしてやりたいと思う気持ちが多かったので、鈴奈との時間を最優先に置くようになった。
俺と鈴奈が付き合ったという情報は1週間も経たないうちにクラスメイトに知れ渡り(もちろんあの女子友達2人が言いふらしたのだが(口止めしとけばよかった)、)、部活の先輩の耳にも入るし、もちろん鈴奈のクラス、吹奏楽部の面々にも瞬く間に広がった。本当に、1週間も経たないうちに、もしかして全校生徒が知っているんじゃないかと思うくらい、周りに広まってしまったのである。