皆さんレスほんとありがとうございます。温かいレスばかりでほんと励みになります。では雑談もなんなんで、続きです。
宮崎隼人が野球で有名人だったということを知って、前にも増して隼人を意識するようになった。隼人は他の人とはどういうふうに接しているんだろうとか、友達ってどんな人がいるんだろうとか。思ってみれば俺は学校での隼人をまるで知らなかった。俺は1年2組で、隼人は4組だったから尚更会わなかったし、知る由もなかったのだ。でも、教室移動やなんだかんだで見かける隼人の周りにはいつも違う友達がいて(女子も含めて)、楽しそうに会話をしていた。そのはつらつとした笑顔を見るとなんだかこっちまで嬉しくなって笑ってしまうような心地になる。あとは隼人ネタにも敏感になった。特にクラスメイトの女子が休憩時間とかで騒いでいるのだが、4組にいる彼女達の友達が隼人とこんな会話をしただの、手が触れただの小さいことで騒いで、いかに隼人が憧れの的なのかがよくわかった。俺はそんなことを耳にすると、憧れる前に話してみればいいのに、と他愛もなく思った。でも回りがこんなに隼人に対して一目置いているのに、そんな隼人に対してなんの心構えもなく気軽に話せる俺は、ほんの少しだけ優越感に浸れた。
学校には第一体育館と第二体育館がある。バスケ部は第二体育館でいつも練習を行っている。体育館は熱がこもるから、体育館入り口とはまた別にある四方の扉を開け放って空気を入れ替えている。その、グラウンド側に面した扉に立つと、野球部の練習風景がよく見えた。部活が始まって2、30分はいつもキャッチボールをしている。ユニフォームの紺の帽子をかぶらず、ウォーミングアップの手軽さがよくわかった。この学校の野球部は、頭を丸めろとかの規則はないらしく、髪がある(長いは少々言いすぎ)部員がちらほらといた。でも坊主頭の部員の方がやはり多かった。隼人はというと、平均的な髪の長さで、いつもワックスで髪を右から左へ流していてよくきまっていた。隼人には無造作ヘアがよく似合っている。そうこうしているうちにウォーミングアップは終了し、散り散りにキャッチボールをしていた部員がホームベースに走って集まっていった。・・・・・・というところでバスケ部の練習も始まり、そこまでしか見られなかった。でもちょっとした休憩の合間に外を見てみると、仲間と笑い合っている隼人を確認できた。隼人にはよく笑顔が似合う。そして野球のユニフォームもさまになっていた。なるほど、野球部員の中でも隼人は浮いた存在だった。野球部員は見るところごつごつした感じで、頭も大きく屈強な感じだったが、隼人はすらっと背も高くて必要な筋肉以外ついていない感じがした。そりゃああんな中で格好よくて、なおかつ野球の腕もトップだったらモテるわけだ。聞いた話だと、早くも女子の中でファンクラブができているそうだ。あくまでもウワサだが。
そんな、なんとなく隼人を意識して見るようになって数日が過ぎたある部活終わりの事だった。
その日の部活はいつもより遅くなって8時半にようやく終わった。いつもなら7時45分とか、8時丁度に終わるのだが、それよりも30分も多く練習をしたのだ。部員と一緒に更衣室に入って制服に着替えた。すると一人の先輩が言った。
「今日の掃除当番だれだっけ?」
すると、同級生の木村が言った。
「あ、はい!今日は俺と佐藤です」
そう言われて俺は始めて今日が掃除当番だということに気づかされた。俺の肩をぽんとたたいて先輩達が更衣室を後にする。
「よろしく頼んだぞ」「は、はい!」
そう言って続々と同級生も帰っていった。残されたのは俺と木村だけだった。木村は心配そうな目で俺を見つめた。
「佐藤、大丈夫か?今日は俺も手伝おうか?」
「いや、いいよ。前は木村が一人でやってくれたんだし」
「でも今日はいつもより遅くなったろ?」
「大丈夫だって。木村も疲れたろ?先に帰って休め」
「・・・・・・そっか、サンキュな。じゃあ、また明日」
俺は手を振って木村を帰した。
どういうわけかというと、1年生の間は二人一組でペアをつくって、毎日交代交代で部室と体育館に散らばったボールの後片付けをしなくてはならない決まりになっているのだ。そして今日が俺と木村が清掃当番の日だった。
それだけだったらまだいいのだが、さらに俺と木村との間で約束を作ったのだ。その約束というのが、当番が回ってきたら一人で片付けるようにして、俺たちの間でもさらに交代交代にしようというものだった。つまり、前の時は木村が一人で片付けたので、今回は俺一人で片付けるということだ。
思わずため息がもれた。でも途方にくれても始まらないので、手始めに更衣室の中を整理した。体操服をそのままに脱ぎっぱなしにして帰った人もいるので、それをたたんでそれぞれのロッカーにしまったり、ゴミがあったりするのでそれを拾ってゴミ箱へ入れたり、きれいになったところで床を掃除して、汚いところは雑巾で拭いてと、作業は以外に多い。全部片付いてきれいになったころにはほぼ九時近くだった。最後にゴミ箱のゴミ袋を代えて、ゴミの詰まったゴミ袋を持ったまま更衣室を出て鍵をかけた。あとは体育館に散らばったボールを片付けて、開け放たれたままの扉を閉めると作業はすべて終了となる。まずは扉を閉めて、3枚目の扉、グラウンド側の扉を閉めようとしたとき、グラウンドにまだ3人の人が立っているのが見えた。体育館の明かりがグラウンドにまでもれて、だれだかはっきりとわかった。二人は俺の知らない野球部員だったけど、もう一人は隼人だった。扉の前に立った俺の影が長く伸びて、光の変化に気づいた隼人がこっちを向いた。俺は手を振ったけど、隼人からは逆光で俺が黒い影として見えたのだろう、いぶかってだいぶ経ってから俺だと気づいてくれて、手を振ってくれた。隼人たち三人はグラウンドの後片付けをしているようで、散らばったボールを手分けして拾っていた。どこの部も1年生がやることはだいたい同じなんだなと思った。
とその時、体育館の正面入り口から声が聞こえた。
「おい!まだやってるのか!」
俺は驚いて振り向くと、そこに顧問の先生が立っていた。
「さっさと片付けろ!体育館が閉められないじゃないか!」
「は、はい!」
俺は慌てて扉を閉めた。続けて四枚目の扉も閉める。ボールを片付けていたら先生が話しかけてきた。
「おい、佐藤と一緒に片付ける奴は?」
「今日はいろいろあって・・・・・・俺一人っす」
先生もボール拾いを手伝ってくれた。
「一人?・・・・・・佐藤、おまえ、もしかしていじめられてるのか?」
「そうなんです・・・・・・ってそんなわけないでしょ!」
先生はにやりと笑った。
「出たな、ノリつっこみ」
「先生がさせるんでしょ!!」
なんて先生と冗談を言いながらボールを片付け、用具室にしまった。そして先生に部室の鍵を返した。
「おう、確かに預かった。あとゴミだけゴミ捨て場まで持っていてくれよ」
「はい」
「もう9時半近い。早く帰るんだぞ」
「はーい。お疲れ様でした」
こうして掃除を終えて、俺はカバンとゴミ袋を持って外に出た。
第二体育館と校舎は縦に並んでいる。ゴミ捨て場は校舎の更に奥にあった。その隣は広いグラウンドで、体育館側が野球部の練習場所、校舎側がサッカー部の練習場所とわかれていた。ゴミ捨て場まではグラウンドと校舎との間の道を通る。俺がその道に立ったときには野球部のグラウンドはきれいに整備されていて、もうだれもいなかった。隼人はもう帰ったのかな、と若干落ち込んでしまった。とにかくゴミをゴミ捨て場に置いて、自分も帰ろうと思った。
しかしこんなに遅くまで学校に残ったのは初めてだった。普通こんなに遅くまで学校には残れない。その証拠に辺りは静まり返っていて、人一人としていないようだった。
校舎の途切れが見えた頃、突然話し声が聞こえてきた。その声は聞き覚えのある声だった。