なんと、女性の警官(こうちゃんより少し年上あたりの感じ)と仲よさそうに歩いていたのだ。仕事だから仕方ないかもしれないが、周りに市民がいないのをいいことに、婦警のほうがこうちゃんにベタベタ触っている。こうちゃんも照れて耳を赤くしていた。
バスは赤信号でとまっている。「お前ら公務中に一体何しとんじゃ!!」と窓越しに怒鳴ると、車内の生徒たちが何?何?とバカ警官に刮目。たくさんの刺さる視線に気づいたのか、こうちゃんがこっちを向いた。こうちゃんと目があった。睨んでやった。こうちゃんは気まずそうに婦警にぼそっと何かを言って走って行ってしまった。
青信号に変わって、バスは発進。「さっきの警官結構イケメンだったよね〜?!」と黄色い女子生徒の声。「ああゆうのは帽子とったらそうでもないんだって!」と男子の一人が言った。<悪いけど、帽子とろうがマジでかっこいいから>と心でつぶやいた。
こうちゃん、かっこいいし職場でもモテるんだろうな…。
午後5時、学校に到着して、生徒たちを見送り、校長、教頭への諸事項報告を済ませ、サッカー部は自主練にしてクタクタのまま家路についた。
家についたら、真っ先にシャワーを浴びて、全裸のままベッドに潜り込んだ。
やっぱりあの様子を思い出した。
許せない、あの女。
考えてみれば、彼の忙しいのは実は嘘で、本当は浮気をしていたのかもしれない。バイだったのか?いや、そんなの問題じゃない。
ここ一ヶ月近くまともに連絡ないし、会ってもくれない。浮気を理由として当てはめれば説明がついてしまう。
不安で、泣いてしまった。本当だったら明日会って話せるか聞いていたはずが、そんなことでメールを入れる気力すらなかった。
携帯が鳴った。YUIのチェリー、こうちゃんから電話だ。でないでおこうか迷ったけど、いろいろと耐えきれないので出ることにした。
「なんだよ!」と思わず大きい声が出た。
「さっきはごめん、ホントに。」
「…」
「これから会って話せないか?」
「わかった。じゃあ8時に***で。」
久々の声に、安堵もおぼえた。
早く真相が聞きたい、ていうかあいたい!
オシャレな服装…カジュアルでいいよな。香水…これでいいかな。
時間がなかったので急いで支度して、家を飛び出した。階段で転びそうになりながら、店に急いだ。
店員「ゆきひろ様ですか?お連れ様が14番テーブルでお待ちです。」
奥の窓際の席にこうちゃんがもう座って待っていた。20分前からいたらしい。
俺「仕事から直?」
こう「ああ。」
沈黙
店員「ご注文お伺いいたしますが」
俺「え…っと、じゃあおろしハンバーグで」
こう「コーヒーお願いします」
俺「食わねぇの?」
こう「食欲ない…」
俺「そっか。。じゃあ以上で」
店員「かしこまりました」
こう「研修旅行どうだった?」
俺「ええとねえ…」
俺が溜まりにたまった話をわーっとして、こうちゃんはひたすら優しく聞いてくれていた。
食べ物が運ばれてきた。
半分くらいまで食べると、こうちゃんはいよいよ例の話を切り出した。
こう「夕方のことだけど…」
俺「ああ、でも仕事だからああいうこともしょうがないよね」
こう「そうじゃないんだ」
俺「は?」
こう「本当に申し訳ない…俺、彼女と体の関係持っちゃった…」
俺「はっ?」
嫌な予感が的中だ。やっぱり。
頭がサーっと真っ白になった。
平常心を保つふりもうまくできない。目には涙がどっと溢れ、声も、水を持つ手も震える。
こう「そんなつもりもなかったんだけど…」
俺「何言ってんだよ。じゃあなんでやった?」
こう「署の飲み会で完全に酔っ払ってしまって…あずささん(=浮気相手、仮名)が介抱してくれて。あまりおぼえてないんだけど、あずささん、彼女の家に俺を連れ込んでたみたいで。朝起きたら、俺ら二人とも裸で…シーツも濡れてたし…もしかして、てか多分、、、。…でも覚えてないんだ、ぜんぜん。第一、あずささんをそんな目で見たことないし……」
俺「もういいよ。…この一ヶ月、俺がどんな想いでいたのか、考えたか?!こうちゃんに会いたくて会いたくて、もう、はちきれそうな想いでいたのに!!お前なんか最低最悪だ!!殉職してしまえ、このクズ警官!」
冷め切ったハンバーグを残して、1000円札をテーブルに叩きつけ、店を飛び出した。
抑えていた涙が溢れだした、一気に。大の男がこんな、みっともない…。。
このまま死んでやろうか…そんな気分だった。
誰もいない、夜景がきれいに見える公園にフラフラと向かった。ブランコに倒れこみ、泣きまくった。
ノドが痛い、目も腫れている、鼻水が止まらんし、女だったらメイクが台無しだった。
泣きじゃくったら、少し落ち着いた。
「クズ警官、殉職してしまえ!」
仮にでも最愛だった彼に、浴びせる言葉ではなかったと深く反省した。