そんな日々を送っていたある日、Eからメールが届いた。
――彼女とまだ付き合ってたんだ――
僕は馬鹿だ。
Eとあれほど深く愛し合いながら、あれほど気持ちを確かめ合いながら、まだ付き合っていた年上の彼女と完全に縁を断ち切れていなかったのだ。
僕が年上の彼女と付き合っていることは、周囲の友人たちはみんな知っていた。
恐らく友人の中の誰かがなにかの拍子に、Eに僕と彼女の話をしたのだろう。
友人たちはEと僕の関係など露知らず、僕は彼女とうまくいっているものだと思っていたから、特に隠すでもなく話したのだろう。
もちろん、こういう関係になる前はEにもそのことを話していた。
はじめのうちはEもそれを承知の上で、僕と関係を持っていたはずだ。
でもこんなにも長い間、毎日のように体を重ねていながら、こんなにも愛を確かめ合いながら、いまだに僕が彼女との縁を切っていなかったとは思っていなかったのだろう。
なぜか別れなかったのかと聞かれるとよくわからない。
ほとんど会ってもいなかったし、少なくとも数カ月、体の関係もなかったが、別れを切り出すのだけはためらっていた。
不安だったのかもしれない。
将来への保身だったのかもしれない。
でもそれはすべては僕の自分勝手な言い訳だ。
僕は急いでEに電話をかけたが、Eは電話にでなかった。
何度メールを送っても返事はなかった。
そのまま1週間が過ぎた頃、僕は覚悟を決めてEにメールを送った。
――ごめん。ホントに反省してる。彼女とはもう別れる。
今からいつもの公園で待ってる。もし許してくれるなら来てほしい。
キミが来なかったら、その時はあきらめる。ホントにごめん。――
僕は車を走らせて、いつもEと待ち合わせをしていた公園に行き、Eを待った。
なにも考えず、ただただEを待った。
何度も外を見てEの姿を探した。
何度も携帯でメールを確認した。
それはとてもとても長い時間だったようにも感じるし、あっという間だったような気もする。
いつの間にか真夜中になっていた。
カーラジオでは『Hymne À L'Amour』というフランス語の曲が流れていた。
フランスのシャンソン歌手で、シャンソンの女王と呼ばれたエディット・ピアフという人の歌だ。
日本では『愛の讃歌』とも呼ばれている。
CMなどにも使われており、誰しも一度は耳にしたことがある歌だと思う。
僕はなんとなくこの歌が好きだった。
耐えられず、目を閉じてみるが、Eの姿ばかりが脳裏をよぎる。
くっきりとした二重、長いまつげ、ふっくらとした唇、きれいに割れた腹筋、しなやかな二の腕…。
まるですぐそばにいるみたいにハッキリと思い浮かべることができた。
けれど、待てども待てどもEは来なかった。