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Raining5.
 こっこ  - 09/6/22(月) 19:15 -
連絡先の入手にはそんなに時間はかからなかった。
こちらからメールや電話をしたとしても、返事が来るかはわからない。やはり直接会うのが一番手っ取り早い。

Tは部活内の縦社会に着いていけず、バンドを始めたとの情報を得た。頻繁にライブハウスでイベントに参加しているらしい。あとは簡単。高校の同級生たちでバンドを組んでいて、かつ同じ地域での行動をしているものを探せばいい。


あれから一週間。おれはTの学校の近くのライブハウスの前にいた。


心拍が全身を震わせて、もはや立っている心地すらない。・・・怖い。
たばこを吸おうとしたら、最後の一本だった。火をつけてゆっくりと吸う。
毒以外の何でもない煙草の煙が緊張を緩和していく。


少し離れた灰皿にたばこを投げ込んで、地下へと続く階段を下りた。少しずつ音の振動が伝わってくる。横隔膜を動かすようなベースの音のせいで、吐きそうだ。


落ちたお菓子に群がる蟻の群れの向こうに、いた。
ほんの一瞬、やつの香りを思い出し、すぐに地獄の日々が高速再生される。

見たくない。
怖い。


それでも目をそらさずに彼を見続けた。これは本の中のお話じゃないんだから、辛くても戦わなくちゃならない。これが現実!


目が合う。


音が一瞬消える。ピントが彼だけに合う。
初めて染めた、色ムラだらけだった髪の毛じゃなく、きれいな茶色に染まった彼。
額から汗を流して、マイクを握る彼。


目をそらして、彼は歌い続けた。


カウンターにいるおじさんに、自分の連絡先を書いた紙を渡して、「Tに渡しておいてください」と残して地上に出た。

止んでいたはずの雨が降り返していた。


‘今日みたく雨なら きっと泣けてた‘
あの曲のフレーズが浮かぶ。

うん、あの日が雨なら・・・・きっと泣けてた。


「なにしにきた?」
警戒心がにじみ出たメールだった。
メールでの真相究明は危険だ。一方的に質問して返ってこないこともあるし、両者とも無駄に強気になることもあるため、冷静に事実をとらえることができないから。

無難に。過去をなかったもののようにしてメールを送る。
度重なる掲示板利用で、男がどんなメールを送れば喜ぶのかはなんとなく掴んでいた。ミッション成功。翌日の土曜日、飲むことになった。

**************

「なんで、いじめたの?」
聞けない。これは聞けない。どうしようもない臆病者な自分に嫌気がさしては酒が進む。


少しの沈黙の後、彼からの質問。
T「恨んでないの?」

俺「恨んでるよ。」

T「・・・だよな。」

俺「大好きだったから・・・その分、ショックだったし、辛かったし、恨んだよ。」

T「めっちゃ仲良かったもんね。・・・・ごめん!」

俺「謝らなくていいよ。Tだって、自分のこと責めたでしょ?いじめるほうだって、辛いに決まってる。ずっと一人でいて、周りから距離おいて生活してたらなんとなくわかってきた・・・感じ。ごめん、知ったかぶりかも。」

T「なんで?おまえ、バカだろ!」

俺「いつも、俺があえて辛いほうの道を選ぼうとしたときに、そう言ってたね。」


なんだこの空気っ。元恋人同士の会話かよ。


T「好きだったから。」

俺「知ってた。」

T「もしかしたら自分がいじめられるかもしれないって思って、怖くなって、他の連中に嘘吹き込んで、お前が全員の敵になるようにして・・・」


先生が腐っているクラスの団結力がとんでもなく強くなることがあるという。十人十色の世界であれ、共通の敵がいれば、団結してその敵を攻撃する。動物ならまあ当たり前だな。

T「今日絶対この話になると思ってた。いや、話したかった。」

俺「俺も、同じ。」

ここで、核心を突くことにする。ゲイならだれもが通る道。カミングアウトという処女膜をぶち破ってもらわなければ、おれもその先に進めない。

俺「Tは男同士の恋愛ってありだと思う?」

T「は?」

俺「俺はありだとおもう。性別なんて、外見の違いじゃん。むしろ、当たり前っていう壁の向こう・・ちゃんとその人の人間性を見れてるってことだと思うから、いいことだと思う。」

T「あぁ。・・・ありだと思う。」


そのままボロくさいカラオケに行った。少しづつ、距離が縮まる。
たばこを吸いながら、Tにもたれかかった。


居酒屋ではあれ以上の話はなかった。


だけど今は、昔みたいに、近くにいたい。常にTの香りに包まれていたい。

歌うたびに揺れるTの体は暖かかった。完全に凍結させていた心が、少しづつ、溶けていくようだ。


椅子においていた片手にTの手が少し当たった。
夏にTが泊まりに来た時も、こんな風にドキドキしてたな。


手が離れて、後ろから手を回される。
一気にTの香りに包まれる。頭にTの頭の重みを感じる。


振り返らず、ずっと逃げてきた過去の出来事。
少しだけ振り返って、Tにキスをした。


Tから、返事のキスが返ってきた。優しくて、温かくて、「好き」と「ごめん」が溢れた、深い深いキスだった。

「俺も好き」「もういいよ」という気持ちをこめて、キスを受け止める。


T「ごめん・・・」
俺「いいよ。もう一回・・。」

少しずつ、心を探るように舌を入れてくるTのキス。


チュプ・・・チュル・・クチュクチュ・・・はぁ・・チュプ・・・


引用なし

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