「奏のピアノ聴きたいな」
そんなことを言うのは一人だけ。
同じクラスの智也。
唯一の親友。
クラスで一番気の置けない友達。
でも、俺が男としてるなんつったら離れてくだろうななんて否定的なことを考えてみたり。
放課後の音楽室に2人きりなんてシチュエーション。
ちょっとした期待がある。
小学校の頃、俺の母親にピアノを習っていた。
中学の時はあまり話したことがなかったが、
高校になり同じクラスになったので話すようになった。
「俺の演奏なんてお前と同じくらいだろ」
「上手さとかじゃなくて、奏の弾き方が好きなの」
「ふ〜ん」
恥ずかしさを誤魔化すために、
適当に返事をしてピアノに向かう。
GReeeeNのキセキなんて弾いてみようか。
家でも練習してるから楽譜見なくても大体弾ける。
順調に弾き、サビに入る前にチラリと智也を見る。
目が合った。
俺のピアノを聴いて笑顔でいてくれるのは嬉しい。
「2人寄り添って歩いて 永久の愛を形にして」
智也が歌う。
俺はこの声が好きだ。
こんなこと言われてみたいな…。
そんな思いを打ち消してピアノに集中した。
「奏、上手くなったな」
「智也も歌上手いよ」
笑い合ったあと、ふいに時間が気になり時計を見た。
7時。
そろそろ帰らなきゃかな。
「智也、帰ろ」
「ん?あ、そうだな」
身長差約20センチ。
俺が約160で、
智也が約180。
並んで立つたびに伸びろと思う。
ふと、好きな香水の香りがした。
「智也、香水?」
「あ、わかった?お前が好きだって言ってたやつ。昨日買ったんだ」
満面の笑みで答える智也。
一ヶ月も前に言ったのに覚えてたんだ。
ちょっと嬉しさを覚える。
「これ、俺の好きなやつ」
鞄から別の香水を取り出す智也。
まだ使ってないらしい。
「お前にやるよ」
「ありがとう」
明日つけてみよ。
お互いが好きな香りなんていいな。
初めてそんなトキメキを感じた。