数日後、大史と一緒に帰っているときだった。
電車に乗って地元に着いて、そこからは徒歩15分くらいの道のりだった。
その道中、大史が言った。
「そうそう、話は変わるけどさ、今週の日曜日、久しぶりに休みなんだ」
「そうなんだ、珍しいじゃん」
俺がそういうと、大史は笑顔でうなずいた。
「だからさ、一緒に遊んでくんない?」
俺はその遠慮しがちな誘いに、つい笑ってしまった。
「なに、その頼み方?なんでそんな下から目線なのさ?」
「そりゃあ、明宏様ともあろうお方が僕と遊んでくださるなんて……」
「あーあー、わかったわかったよ。いつも冗談で返しやがって」
俺の愚痴に大史ははにかんだ。
「本当に日曜日大丈夫なの?」
「俺はおまえより忙しくないし」
「そっか。じゃあ、何して遊ぶ?」
「おまえにまかせる」
「おしきた、任せとけ!」
前方に分かれ道が見えた。俺はそこを右に折れなければいけない。大史はそのまま直線に進むのだ。
「じゃあ、また明日な」
「うん」
そうして二人は別れた。
大史と遊ぶのは久しぶりだった。なぜなら大史はそこら辺で時間を無駄に浪費している他の学生とは違うからだ。その説明のため、三日ほど前に戻る。
三日前
朝のホームルームで部活動の入部希望書が配られた。担任の先生が言った。
「いよいよこの時期が来ました。前々から言っていたと思うが、部活の入部期間が始まりました。まあこの期間以外でも入部はできるが、どの部活もこの期間から進入部員に合わせて部活が進んでいくから、入部を考えているならこの期間を逃すなよ。入部希望は一旦私が回収して、それぞれの顧問にわたすから……一週間。一週間後のこの時間にまた回収するので、考えておくように。以上」
とのことだった。
先生の話で教室中がざわついたが、すぐに一時間目のチャイムが鳴って、廊下に控えていた国語の先生が、担任とすれ違うように入ってきた。
その後はいつもと変わらない学校生活が始まった。
一時間目終了のチャイムが鳴った。俺は朝に配られた入部希望願の用紙を机に置いて、考えていた。
すると、いつものように大史が俺の前の席の、椅子の背を前にしてこちらを向いて座ってきた。俺と同じように机に置かれた用紙をしばらく眺めていた。
「明宏、部活入らないの?」
「いま考え中」
「入るとしたらやっぱ野球部?」
「……うん。それしかとりえないしな」
俺は中学から野球部に入っていた。
「何を悩んでいるのさ。明宏なら別についていけない、ってこともないっしょ?」
「そうかな?」
「うん」
(なんで当の本人の自分より自信満々なんだよ)
俺はすこし可笑しくなって小さく笑った。
「おまえは学校の部活なんて入ってる暇がないよな?」
「そうだね」
「いいよなーこんなして悩まなくて済むんだからさ」
「だから明宏の今後を一緒に悩んでやるんじゃないか」
「気持ち悪いからやめろよ」
「なんでだよ……ってかだから悩む必要なんてないじゃんさっきも……」
その後はいつものじゃれ合いだった。
大史は小さいころから地元のサッカーの団体?に所属しているのだ。そこでトレーニングをしているから、学校のぬるい部活なんかには参加できない。(大史自体は決してぬるいとは思っていないだろう。俺の勝手な価値観)だから週末はいつもそちらの練習に行っているし、平日でも週に2、3回は通っているようだ。
だからいつでも大史は忙しいイメージがあるし、今度の日曜日が休みだって聞いて、珍しいなと思ったのだ。
大史と別れて、家に着き、自分の部屋でちょうど着替えているとき、携帯が鳴って、メールが入った。見るとさっき別れたばかりの大史からだった。
「日曜日のデートコースは任せとけ!」
俺はそのメールを見て、どこまでも調子ノリなんだからとあきれるとともに、久しぶりに大史と遊ぶともあっていまから楽しみでもあった。