そんなオレがそれでも毎日ちゃんと部活でて、普段通り乗り切れたのは品田とクラスの奴のお陰だった。
クラスはクラスで友達いるし嶺のことを忘れられた、嶺とはクラスの階も違うし、めったに会わない。
けれど、部活はそうもいかない…必ず嶺の姿を見るし、練習中にラリーする順番は回ってくる。
いつもオレとラリーするとき嶺は怒ったような顔をしてるというか、無表情な顔で打ってて、早くラリーを終らせようとする…オレはそれがすごいヤダったし、そういう態度をとられるって分かっていてもいざ取られると…やっぱりショックだった。
だからオレは次第に嶺とのラリーの順番が回ってきそうになると人に譲ったりして、極力避けた。
だって、嶺のそんな態度見たくなかったから…
そして、オレは自分のせいとはいえ、次第にそんな辛い思いをする部活がいやになって、放課後とかも特進クラスを盾にして「ごめん、補講」とかって言って、徐々に部活をサボるようになってった…いや、なろうとしてたっていうのが正しいかな。
そうやって放課後に教室にいるようになって3日目くらいだったかな?(特進クラスは部活やってるやつ少ないから放課後でも残ってるやつが多い)アイツが話しかけてきたのは
四本「コラ!!!部活サボってなにしてんのー?」
オレ「うっせ!!!体調悪いからいーの」
話し掛けてきたのは四本だった。こいつはクラスの女子のリーダー格で学年ってか、学校通して顔広くて、オレの親友の一人。オレがテニ部に外部一人だけはいって寂しかったときクラスで悩み聞いてくれたやつ。
四本「ふーん、テニ部でハブられたか?笑」
オレ「そんなことねーし」
四本「そっか、なんか最近元気ない気したから」
オレはその一言になんかじわっときた…なんていうか、嶺のこといつもどっか引っ掛かってんのに、もうそのくらいから『嶺なんかのせいで落ち込むかよ!!』みたいにムキになってたとこもあって、クラスでは今まで通り明るくみんなと騒いでたつもりだったし、騒げてたつもりだった。
なのに四本にそう言われて『オレそう見えてんだ…』みたいに思って、なんかホントはいつも誰かに話聞いて欲しかった気持ちどっかあったくせして、隠してきた自分が惨めに思えたし、何よりも疲れた。
誰かに分かってほしかったし、同情してほしかったんだと思う。
品田や三原にも相談をしていたけど、やっぱりテニス部は身内ってのもあって、言うのが気恥ずかしいこともあるし…なかなか言えなかったことももちろんあったし、特に品田の前だと最近は自分も意地になったり…「でも、やっぱり仲直りしたい」とかってころころ意見変えて目茶苦茶だったから…そんなオレに品田はあくまで客観的で中立の立場だから決してオレだけ擁護とかしなく、オレにも言うべきことは言ってきたから耳が痛い。
だからその時四本に同情してほしかったんだろうな…全てを言いたくなった…
四本には全てを受け止めてくれるような安心感があった……オレが嶺を好きってことも。
そして、オレは四本のオレを気遣かってくれる態度に甘えてしまった。
勢いで全てを話した。嶺と話すようになって、友達になって、親友になって、そしてオレが嶺を好きになったこと…今の状況…全てを洗いざらい話した。
これが人生初めてのカミングアウトかな…笑
でも…今思い返すと、その時のオレは「辛かったね」とか、オレの望むような自分をかわいそうだと思ってくれるやつが欲しかっただけだったのかもしれない…
そんな自分の被害者意識がオレの目を曇らせてたのかな…
四本はオレの話を聞いて
「そっか、辛かったね。私はそういうの偏見ないから大丈夫だよ。地元の友達にもいるし笑
仲直りできたらいーね!!また、辛かったらいつでも言ってね。相談はのれるから!!」
…オレの望み通りの答えをくれた。
四本はホントにいいやつだ。オレをホントに支えてくれた。
でも、あとになってこんなにもオレがこのことを後悔するなんて…
そんなことオレにはわからなかった。
話終わってオレは少し楽になった。品田にも三原にも誰にも言えなかったことを言えて、少し肩の荷がおりた気がした。
そんなオレに四本は
「とにかく仲直りしたいなら部活は嫌でもでなきゃダメだよ!!!」
っていってオレを無理矢理部活にださせた。
そのお陰でオレは幽霊部員にこのときならなかった 笑
オレがサボろうとすると四本がオレを教室から追い出したから 笑
悩みを聞いてくれる友達…相談にのってくれる友達。
本当に自分は恵まれてたと今では思う。
でも、その時のオレはそうは感じられなかった…
この状況になってようやく気付いたから、嶺の自分にとっての重みを。
気付いちゃったから…
どんなに友達がいて、どんなに話し掛けてくれて、どんなに一緒に騒いで、どんなに相談のってくれて、どんなに一緒に泣いてくれるやつがいても
やっぱり満たされない自分に。例え、何人の何十人の友達を束にしてもオレの中の嶺っていう存在には到底叶わないことに。
嶺が側にいてくれなかったら意味がない…本当にそう思うようになった。
嶺の側にいて、自分のゲイの可能性に怯えること、嶺をどんどん好きになって自分がどんどん深溝にはまって、奈落に堕ちそうな恐怖に怯えること…
そんなことはもう、オレの中では嶺が側にいなくなってしまうことに比べたらちっぽけに思えてきた。
オレの決意はだんだんと固いものになっていった。
『嶺と仲直りしたい、どんな形でも嶺といたい』
ただ、そう願うだけになった。
ムキになって、意地はって、単に嶺から冷たくされてる状況から目を逸らしてた自分はもう気付いたらいなくなってた。
気付いたらオレは品田に素直に「仲直りしたい」としか言わなくなっていた。
それくらい、気付いたらオレ自身が、オレの全てが嶺を必要としていたんだと思う。
それからオレは嶺と仲直りするために必死に頑張った。
帰りに嫌味な佐藤がいようがいまいと、とにかく嶺に自分の本心からの申し訳ないっていう気持ちを聞いてもらえるよう説得した。
でも、嶺もなかなか頑固でいっこうに取り付く島がない…
オレは話しかけては、無視されて、落ち込む…その繰り返しを続けた
そんなオレを品田、三原、四本はもちろんのこと石原とかもさりげく協力してくれ支えてくれた。
けれど中々うまくいかなかった…