思えば、なぜあの時カッとなったからって店の店員を殴ったのかなんて覚えてない。
俺は竜太。20のフリーター。
たまたま出掛けたレンタルビデオショップでのごたごたで店員を殴ったのがきっかけで少年院に向かう途中の大型バスの中にいる。
所謂、今時の若者が理由もなくキレて店員を殴って少年院送り、になったらしい。
周りを見渡せば、バスの中を見張る警官と俺と同じ理由でこのバスに乗っている奴らがちらほら。
見た目まんまの奴や、真面目そうなやつ。色々だ。
みんな外を見ていた。
バスはどんどん都心から離れ、山の奥へと入り込む。
俺達が送られる少年院は、どちらかと言えば自主的な更生が重視されていて厳しくはない施設だとは説明があった。
俺はそんな施設に行くのも初めてだし、緊張となんだかわくわくする気持ちを抱えていた。
「降りろ。」
バスが止まり、警官が俺達に声を掛けた。
バスをぞろぞろと降りてまず思ったのは少年院らしくない建物が並んでいる。
重苦しい空気も殺伐とした空気もなく、例えるなら柔らかな色で塗装をされた学校。
話を聞けば、今見ている施設は本館と呼ばれそれとは別に寝泊まりするところがあるらしい。俺達は本館へ入り、ある程度の説明を受け大きな部屋へと案内された。