マジ寝に入ろうとする俺を必死に寝かせまいとするのは、俺の彼氏ヒデアキ。最近は『ヒデ』と呼ぶようになったけど、勿論出会った頃は『ヒデアキさん』だった。ヒデから声を掛けてきた。
「503に入院してる人?」
俺は事故で左足骨折して入院してて、朝メシ喰った後、喫煙所でタバコ吸ってた。
『そうすけど。』
転勤直後の事故で、まだ慣れてない街の病院で見知らぬ人に馴れ馴れしく声を掛けられた俺は、相手と目も合わさず返事した。でも相手はまた馴れ馴れしく話掛けてきた。
「やっぱり。3日前の夜救急で来ただろ?」
『はい。』
「君さ名前アレで何て読むの?」
『は?』
「カミ・・・ジ?って読むの?あ、ライジって読む?」
着てる服からして入院患者では無いことは判るけど、俺から見れば相手のこと一切知らないし今会ったばかりなのに、俺のこと知ってるような相手の馴れ馴れしい態度に俺は少しイライラして、タバコを灰皿に押し付けながら返事した。
『らいじって読むんです。』
「へー、かっこいい名前だな。俺ヒデアキ。よろしくな。」
よろしくって言われても何で?何を?って思い、俺は返事しなかった。
「俺戻るけど、大抵はここにいるから。じゃまたな、らいじ。」
ヒデアキって人はそう言ってエレベーターのある方向に歩いて行った。俺はその後ろ姿を一瞬だけ見て、もう一本タバコくわえた。