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続きです。
マサキの唇は柔らかくぷにぷにしていて、自分でやっておいて内心ドキドキしました。
「さっき言ってた1年のこと?」
僕の問いかけにマサキは頷きました。
「そう、それ」
と、たぶん言ったんだと思いますが、僕が唇を摘んでいるので何を言っているのか分かりません。
マサキの鼻息が指先にかかって、くすぐったくて仕方ありませんでした。
「どんな奴なの? 僕、知ってるかな?」
それにもマサキは頷いたり、首を傾げたりして答えます。
なんか、もごもご言ってましたが、今度は全然分かりませんでした。
無抵抗なのも困りものです。
僕はマサキの唇から手を離して解放してやりました。
「ちんちくりんで、髪を茶色く染めてる奴だよ。俺の後ろをうろちょろ付いてまわってるから見たことあるかも」
マサキは唇を指で確認するように撫でながら喋りました。
「ああ、あの小猿みたいな子か」
そんな1年の子が、マサキを訪ねて教室までやって来たことを思い出しました。
マサキは少し迷惑そうだったのを覚えています。
「そう。その小猿がさ、プレーはずば抜けてうまいんだけどさ、すっげーナマイキなんだよ」
「マサキみたいじゃん」
僕は笑って言いました。
「いや、俺はもっと可愛げがあるから。先輩とも上手くやれてたし。気に入られてたから」
確かにマサキは人に好かれることに関しては天才的です。
カッコ良くてサッカーもうまかったら、先輩からひがまれて、イジメとかありそうなものなのに、そういう話は聞いたことがありませんでした。
「その子はうまくいってないんだ?」
マサキは渋い顔をして頷きました。
「そなんだよ…。自分よりヘタな奴には見向きもしないから。挨拶しなかったり、パス出さなかったり。1年の中でも孤立してるしさ」
「部長が面倒みてやんないの?」
「みてるよ。しかたないから、なるべく目が届くところにいるんだけどさ、ずっとって訳にもいかないだろ? 2年の奴らがシメルって話してるの聞いて、なんとかなだめて止めさせたんだけど、いつ俺の知らないところでそうなるか。けっこうマジでヤバい」
「小猿に態度を改めさせるしかないね。マサキの言うことは聴くんじゃないの? どうせ気に入られてるんだろ?」
そう言うと、意外にもマサキは少し黙り込んでしまいました。
「…そなんだよ。入学する前から俺に憧れてたんだって。俺にまとわりついてさ、なんでも俺のやることマネして鬱陶しいし。朝はなに食べてるのかとか、どんな曲好きかとか、テレビはなに観てるのかとか、何時に寝るのかとか、風呂の入り方とか、スッゲー聞かれて面倒くさい」
マサキはまくしたてるように言いました。
もちろん口を尖らせています。
話を聞いていて、マサキが傘の中で執拗に僕との共通項を並べ立てたのを思い出しました。
「カワイイじゃん」
僕は可笑しくなって笑いました。
「…え。ケイはあんなのがカワイイの?」
マサキの顔色がさっと変わりました。
「なんか、誰かさんと一緒で、手が掛かる奴ほどカワイく思えるもんなんだよ」
僕がマサキをしげしげと眺めながらそう言うと、マサキは怖い目つきで睨んできました。
「だ、誰かさんて誰だよ!」
マサキは怒鳴って、僕の胸を小突いてきました。
僕はびっくりしました。
そんなにヒドいこと言ったとは思わなかったので、心外でした。
「そうやって怒鳴る奴のことだよ」
僕はマサキの胸を指でぐいと突き返してやりました。
「え?」
マサキは間抜けな顔で僕を見てます。
「手が掛かるってのは言い過ぎだったかも知れないけど、でも、怒鳴ることないと思う」
僕はマサキをじっと見ました。
マサキは目がキョロキョロして、あからさまに動揺してました。
「…あ、俺? もしかして、俺のことか…?」
「そうだよ。他に誰がいるんだよ、そんな奴」
僕が呆れているとマサキは大きな瞳をクリクリ動かして、なんだか照れてるみたいでした。
「…バ、バカ! そんなの分かんないだろっ、ちゃんと言ってくれなきゃ!」
マサキは僕を突き飛ばすように押しのけると、部屋の中をオロオロと歩き回っていました。