「実は、昨日残業で残った時に部長にセクハラされたんだ。睡眠薬か何かで眠らされて、トイレに運び込まれて。何されたかは覚えてないんだけど、部長の感触が全身に残ってて、体臭もずっと鼻に残ってる気がするんだ」
俺がそう言うと、浅田はポカーンと口を開けていました。
「写真も撮られたみたいで、ばらまくぞって脅されて……。だから部長が怖いんだ」
「ひどいね」
浅田は相談に乗るのが苦手なのか、黙ってしまいました。
「聞いてくれてありがとう。でも浅田に言ったところでどうにもならないけど、ただ聞いてくれてありがとう」
なんの解決策も見つからない。浅田に言うんじゃなかった。という後悔が、俺の腹にべっとりと残りました。
翌日は普通に浅田と談笑しつつ過ごしましたが、部長を見る度に心臓が飛び跳ねました。
残業も頼まれないまま定時になり、帰ろうと思いましたが……バス停まで来たところで携帯電話を忘れてきたことに気づきました。どうでもいいかとも思いましたが、なんとなく不安で取りに行くことにしました。
無人のオフィスに入り、自分の机の上に携帯電話は……ありました。なぜ忘れたのか分からないぐらい、かなり大胆に置かれていました。
携帯電話をポケットに入れて部屋を出ようとしたその時、聞き覚えのある声が2つオフィスに入ってきて、俺はとっさにしゃがんで隠れました。
声の主2名は、部屋の隅のソファに座ったようでした。
「はい、誰もいなくなったよ。相談って何?」
ひとつは部長の声。
「実は……」
もうひとつは……浅田!?
「実は、部長のこと……なんです」
「え?聞こえない」
「部長のこと好きなんです!」
俺は耳を疑いました。
つづく