俺と浅田は疎外されたもの同士といった関係でした。理由はありませんが、なんとなく周りに合わせられないような。
「谷中さんはね、もっと社交的だったら、絶対にその歳でもモテモテだと思うんだ」
昼休み、食堂でカレーを食べていると浅田が言いました。
「はぁ?」
「イケメンだし、背が高いし、ムキムキだし、優しいし」
俺は鼻で笑いました。
「イケメン?俺が?」
「うん、すごく。はやく結婚しないと一生独身だよ」
結婚したいと思う気持ちと、どうでもいいやという諦めが衝突していました。
「浅田はいいよな。若くて」
「えへへ。で、結婚するの?しないの?」
そんな決断、今ここで出来るわけないだろう。
「まず彼女がいないし。友達がいないのに、彼女なんかできるわけないだろ?」
「俺がいるじゃんか」
「あはは」
昼休みの他愛のない会話は、錆び付いた俺の心にとってのオアシスでした。
もうすぐ5時。今日は定時に帰れそ……
「あ、谷中く〜ん!」
部長の声が響いて、俺はビクッと震えました。
「今日も頼みたい仕事あるんだけど〜!」
部長の手が舌が、体中を這いずり回る感覚が蘇ります。ふわっと香る部長の体臭。
「昨日ほとんど寝てないので、申し訳ありませんが帰らせてくださ〜い!」
「そうか……。分かった!ゴメンね〜!」
気付くと鼓動が速くなっていました。
「谷中さん、大丈夫?顔色悪いよ」
浅田が顔をのぞき込んできました。俺は喉に何か異物がこみ上げてくるのを感じて、トイレに走りました。
「ゲホッ!ガホッ!」
全てを吐き出してぐったりしていると、コンコン、とノックが聞こえました。
「……は、はい」
声にも力が入りません。
「谷中くん」
部長の声です。
つづく