俺は一人暮らしの余裕からか、健康には気を使っています。土日のジム通いもその一環で、ただの趣味、習慣みたいなものでした。
「筋肉すごいですね」
普通にスーツを来ているときでも、たまに同僚にそう言われます。
身長は182cmで、他の人に比べて頭一つぐらい高い感じ。
あのちょっとメタボで背の低い部長が、自分をオフィスからここまで運んだのはちょっと信じがたい事実でした。
閉じた便座に座って、自分の服の匂いをかいでみると、部長の匂いがしました。……やはり、いい匂いではありません。
自分が部長に性的暴行を受けたのは認めたくはないですが、事実なのでしょう。
俺はゲイではないので、いま思い出してもただただ不愉快な出来事でした。
もうすぐ8時、仕事が始まります。俺は立ち上がって、のろのろとオフィスに向かいました。
「谷中さん、おはよう。遅かったね」
声をかけてきたのは隣の席の浅田でした。浅田は3年前に入社してきました。年齢は確か……今年で27だったはず。13も離れていますが、この会社で唯一気さくに話しかけてくれて、また自分も話しかけやすい存在でした。
「おはよう」
浅田にあいさつしながら、目線は部長の方に向いていました。一瞬、部長と目が合い、俺はとっさに目を逸らしました。
部長が恐ろしい、そう思いました。
つづく