僕はタオルをリュックに戻して、マサキからカバンを受け取るとカゴに入れ、上からビニールを被せました。
「こんな雨でもチャリンコなんだな」
と、いまさらマサキが感心したように言います。
「うん。雨でも風でもチャリンコだよ」
「親、共働きだっけ?」
「いや」
「送ってもらわないんだ?」
「送ってもらわなきゃ通えないような子供じゃないだろ?」
送ってもらおうと思えば僕は母親に送ってくれと言うこともできたけれど、その頃母は祖母の介護で大変だったから、なるべく負担はかけたくありませんでした。
一方、マサキのところは母子家庭だったので、やはり負担をかけたくなくて送ってくれと言うことが出来なかったと思います。
「だな」
マサキはニッコリ笑います。
「マサキは歩き?」
「ああ、さすがに雨だと歩きだよ」
「近いからいいよ。家はチャリじゃなきゃ、さすがにキビシいから」
マサキの家は自転車で15分、歩いても30分くらいの場所で、僕の家は自転車でも1時間くらいかかるので、歩いたらどれくらい掛かるのか分かったものじゃありません。
「傘持つよ」
とマサキが言うので、僕はマサキに傘を預けて自転車を動かします。
「時間あるだろ? 家寄ってけよ」
二人で歩き始めるとマサキが言います。
「うーん…」
僕の曖昧な返事にマサキの傘が揺れます。
「なんだよ、予定あるの?」
「ちゃんと傘差してくれる?」
「予定あるのかよ?」
マサキは口を尖らせ、まるで子供です。
「別にないけどさ、雨で濡れて気持ちワルいから早く帰って着替えたいんだよね」
「着替えくらい貸すよ。寄ってけよ。たまには二人で思う存分語り合おうぜ」
とマサキは傘を振り回します。
なんだかテンションの高いマサキを見ていると心配というか不安が襲ってきて、やっぱり寄るのよそうかなとも思いましたが、どちらにしろマサキの家は僕の家へ帰る途中にあるので、もし気が変わったら寄らずに帰ればいいかとも思って、ひとまず寄ることにしておきました。
歩きながら喋って思ったことは、やっぱりマサキと喋るのは楽しいということでした。
普段学校ではたいてい他にも人がいるので、二人きりで喋るのは本当に久し振りのことでした。
マサキには気を遣うことも、愛想笑いをすることも必要ないので、とても気が楽で、いつまでもずっとこのまま喋っていたいと思いました。