なかなか進まなくてすみません。続きです。
マサキは全くひるむことなく更に身体を寄せてくると、僕の手の上から傘の柄を掴んできました。
「手、握んなよー!」
僕はまた大きな声を出してしまいました。
「照れんなよ。同じ名字の仲じゃん」
マサキはお構い無しです。
マサキとは同じ名字で、それはもちろんたまたま偶然でしかないのですが、というか世間一般ありきたりな名字なんです。
世の中に何千万人いるんだってくらいポピュラーな名字です。
でも1年の時、マサキが転校してくるまでクラスには同じ名字の子はいなくて、だからケイトって呼ばれるのが嫌だった僕には好都合で名字で呼んでもらっていたんです。
だけど、マサキが現れてどうするってことになって、僕は今まで通りに名字で呼んでもらい、マサキはマサキって名前で呼んだらいいんじゃないかって提案したんです。
みんなそれで納得したんですけどマサキ本人だけが納得しなくて。
「自分で自分の名前呼んでるみたいで気持ちワルいからケイトって呼ぶ」と言ってきたんです。
確かにその理屈もわからなくもないけれど、それよりも名前で呼ばれることが嫌だったので反論しました。
僕の目からは殺人光線が出ていたらしく、クラスのみんなはどうなることかとハラハラだったそうです。
「名前で呼ばれるの嫌なんだ」と言う僕に、
「どうして?」とマサキはまっすぐに疑問をぶつけてきました。
僕は正直に「ケイトって女の子の名前みたいで嫌なんだよ」って伝えると、
「そうか?」とあっけないほど軽く言われて、
「そうなの!」と僕が声を荒げると、そこでマサキは少し考えて、
「だったらケイって呼ぶよ」と言ってきました。僕は即、却下です。
「やだ」
「じゃあ、ケイやんは?」
「はあ?」
「ケイっち、ケイどん、ケイちゃん」
「ありえない」
「じゃあさ、頭文字とってKは?」
「それ変わらないじゃん!」
「いいじゃんケイで。呼ぶの俺だけだったら、いいだろ?」
マサキはニコニコ顔です。伝家の宝刀です。
まわりのみんなも笑ってます。
僕は半分負けます。仕方なく提案を受け入れます。
「…うーん、分かったよ。なら呼んでもいいよ。ただ、頭文字のKな」
「それ変わらないじゃん!」ってマサキは笑いました。みんなも笑いました。
僕もつられて笑ってしまいました。