理科室の一件は、恐らく、松本先生にばれていたと思われる。だからどうしたと尋ねられれば、それまでの話かもしれない。松本先生が例え、あの黄土色の淫液に塗れたビキニを、そしてあの床に飛び散った濃い精液を僕のであると断定したところで、何が出来るというのか。生徒ならともかく、いち体験生の醜聞を敢えて追求してもなにも出て来ない。せいぜい、あのビキニを嗅ぎながら、今晩、自慰に耽るくらいしか考えられない。大体、僕のビキニだと確信出来る術もない。まあ、あの場で僕の体操服を脱がさない限り。
下らない堂々巡りを繰り返しながら、僕はプールから上がった。5限目は、また体育。今回は、午前にあんな淫らなことをしたのだから、六人もそれなりに満足したらしく、僕を玩具として扱うこともなく、プールで爽やかに平泳ぎの練習に精を出している。流石は、小学生といったところか。
僕は、耳に水が入ったのでタオルを持ってくるために更衣室に戻る。勿論、今日は白無垢の水着などを着用せず、昨日舜一らに返してもらった、スクール水着を穿いているから、プールサイドも普通に歩める。
市の水泳場が隣接するため、共同利用しているこの学校の更衣室はなかなか広い。個室の更衣室も、シャワーも充実している。僕は、無論そんなものは、使ってないから、棚にある籠に入れたバッグからタオルを取り出し、耳の水を抜いていた。
侵入者の侵入は、突然だった。わけがわからない。引き戸が遠慮がちに開かれる音がして、僕は反射的に暖簾のかかった個人更衣室に逃げ込んだ。生徒なら、隠れる必要はないのだが。なんと、恐る恐る侵入してきたのは、松本先生その人だったのだ。理科の松本先生がどうして………
松本先生は、授業中で誰も入ってこないと安心したのか、大胆にも、生徒の手荷物を漁り始めたのだった。しかし、それは悪戯感覚のものではなく、明らかに予めの意志を秘めたものに見受けられた。先生は、似たようなスイミングバッグの生徒の名前を見ながら、該当しないものには見向きもしなかった。
一体何をする気なのか。
そう思っていたら、先生の手が止まった。暖簾の隙間から目を凝らすと、それは彰吾のバッグだった。先生は、辺りを確認すると迷わず手を差し込み、暫く探ってから、彰吾の下着である、灰色のトランクスを引っ張り出した。
僕は、もうただその光景に驚くばかりだった。何故なら、先生はそれを鼻に当てて、嗅ぎ始めたからだ。特に、股間と密接している内側の部分。そして、ひどく興奮していた。次に彰吾の下着を片手に今度は、隣の舜一のバッグから同様に、彼の下着を取り出すと、その匂いをまた堪能した。
僕は、もうわけがわからなかった。確かに、先生の僕らに対する視線は怪しげな疑わしいものがあったが、まさかここまで大胆で、己の欲望に従った行動を起こすのは想定外だった。先生の下半身に注目すると、僅かであるが、膨らみがあるのがわかる。散々、下着の匂いを楽しんだ後、先生はそれらを元に戻し、今度は躊躇いもなく、その下にある僕のバッグに手を伸ばした。
先生の態度は、彰吾や舜一の時とは異なった。まず、タイル張りの床に僕のバッグの中身を乱暴にぶちまける。僕は、声をあげそうになるのを必死にこらえた。股間に嫌な感触を覚えたので、見下ろすと、予想通り、この光景に刺激され、スクール水着の中の肉棒はむくむくと容量を増していた。
先生は、ばらまかれた制服、体操服、タオルの中を何度も手でかき分けて
「下着がない」
小声だが、確かにそう言った。
なるほど、言われるとおり、下着はなかった。それは、先生の白衣のポケットの中に依然としてあったからだ。理科室で、舜一が僕のビキニを松本先生に提出してから、それは勿論、僕の手に帰ってはなかった。つまり、先生は、このビキニは誰のものかを確かめるために、更衣室まで出向いたのだろう。
これで、完全にバレてしまった。僕は、ついさっきまで危険視していなかった状態に、改めて怯えた。恐らく、理科室の床の濃厚な精液も僕のだったと確信を深めたことだ。先生は、満足げにバッグに元通り戻すと、何食わぬ顔で更衣室を出ていった。
僕は、その場に座り込んで考えた。未だ、水着の中では肉棒がそそり立っている。最早、手遅れかもしれない。だが、やる価値はある。そして、決心した。
ビキニを先生から、取り戻そう。と。
授業が終わり、戻ってきた六人に事の子細を根ほり葉ほり尋ねられた。僕が更衣室に戻ったのと、松本先生らしき人が侵入するのを目ざとく目撃していたからだ。
僕は、全てを話さざるをえず、ビキニを取り戻したいことも語った。
「おもいろいじゃん」
舜一が、髪を乾かしながら早口でいった。
「作戦、考えてあげますよ」