「この前?」
「はい。高校の卒業式の日、お母さんが教えてくれたんです。コウスケさんに母さんが言ったこと…コウスケさんが言ったこと……」
俺がおばちゃんに言ったこと………
あの日はお前の友達からお前が目を覚ましたことを伝えられ、学校が終わったあとすぐに会いに行った
ナースステーションで場所を聞いていたら、おばちゃんに会って……
「コウスケ君、ごめんなさい…もうあの子に会わないでほしいの」
突然だった
なんで…………
出かけた言葉は止まった
おばさんは泣いていた
「…ごめんなさい」
それ以上、責める言葉なんて出てこない…
「わかった。ごめんね、おばちゃん。…伝えられる時期になったらでいいから……伝えて………『幸せになって………
いつまでも
どこにいても
お前の幸せを
祈ってるって…』
伝えられることはないだろうと思ってた
伝えて…くれたんだ…
「コウスケさんがお見舞いに来てくれなくてふて腐れたり、他の人の隣で笑ってたことで悲しんだりもした。でも、そんな自分が急にガキに感じて…あなたがその言葉を言った時どんな気持ちだったんだろうとか…考えたら…あなたにずっと会いたかった。学校とか仕事が忙しくて、中々叶わなかったんですけど…」
「………」
「…だから今日会えて…本当に嬉しかったんです…なのに…世間話で帰ろうとするし…謝らせてもくれないし…本当は…コウスケさんが俺の顔見て…終わらせたいつもりで来たなら、終わらせてあげた方がいいのかな、とも思ったんです…」
「……なら、なんで…」
「これ…」
そう言って、近づいてきたお前は
俺の首のネックレスに手をかけた
「…やっぱり…さっきかがんだ時に少し見えたんです…」
首のチェーンには……お前にもらったペアリング
この二年間…外したことなんかなかった…
さすがに今日つけてくる勇気はなくて、チェーンに通して首にかけてた
「…左手…指輪焼けしてる…指輪…黒くなってるし…自惚れかもしれないけど…ずっとつけててくれた?」
見つめてくるお前…
溢れ出す二年間の想い…
止まらない
「…お前がずっと付けてろって言ったんだろ…」
俺がそう言ったら
お前は笑顔で自分の首のチェーンに手をかけた
そこには
俺と同じ
錆びて黒くなったペアリング
「…それ…」
「…捨てれるわけ…ないじゃないですか…さすがに磨きに出そうと思って首にかけてたんですが…」
二年間の想いが
埋まった気がした
「…俺、風呂以外ずっとつけてたし」
「俺なんか、風呂でも外してなかったですよ」
そりゃ黒くもなるよ、と
顔を見合わせて笑った