俺は東京にある大学に通う、大学2年生だ。公立中学・附属高校から一緒のケンジは、俺の幼馴染だ。高校生まではお互いに気の合う友達で、よく一緒にメシを食ったり、家が近いので通学も一緒になることがある。ケンジはサッカー部で、俺はテニス部だった。でもクラスが一緒になることが多く、よく遊んだ。高校の時までは他の人たちからよく「仲良いね」とか言われたものが、大学になるともはや何も言われなくなった。ケンジはよくいる優等生だ。スポーツができて、勉強もできて、ユーモアと愛嬌があって、といったような。身長は175位はあるし、顔立ちも整っているものの、これまたよくいる世間知らずなお坊ちゃんで、中身はガキのままだった。俺はケンジに比べれば静かで目立たないタイプだ。ケンジほど何かの行事に積極的に取り組むことはないし、大勢の仲間と一緒でいるよりは、一人か二人でいるほうが好きだった。まあ、前置きはこれくらいでいいだろう。
よくある話だが、高校生のころ、いくつかの出来事があって俺はケンジのことを好きになっていった。話は好きになった後から始まる。
これは高校二年生の冬のことだ。この時期には俺はかなりぞっこんになってしまっていた。だがカムアウトもしていなかったし、俺自身、自分のことに整理がついていなかった。だからいつもボーっとケンジのことを考えていた。そんなある夜突然、母親が部屋にいる俺を呼んだ。ケンジからの電話だそうだ。俺は自分の携帯電話をたまたま電源を切っていたことに気づいた(もちろん滅多に切らないが、そのときはそういう気分だったんだ)
「もしもし?」
「シン?携帯どうしたの?繋がらなかったけど。」
「あ〜ごめん、たまたま電源切ってたんだ。どうした?」
「あのさ……いまいい?」ケンジはなぜか深刻そうだった。家の電話でそんな話はできない。親同士の付き合いだってある。
「あ、ちょっと待って。二分後かけ直す。」
「わかった。待ってるよ」
俺はダウンジャケットを羽織り、携帯を持って家を出た。
近所の公園のベンチに座って電話をかける。
「あ〜悪い悪い、外出たよ。どうしたんだ?」
「ケンカしちゃった」見栄を張って笑っている。
「お父さんか?」以前からケンジは父親と仲が悪かった。
「そう。…あのさ、これからシンちゃんち行っていい?」
懐かしい呼び方だ。頼む時は馴れ馴れしく。世渡りの上手なやつだ。
「いいけど、なんで?」
「もう帰らないって言ってきちゃった」
「そっか…まあ、いろいろあるんだろう。わかった、来いよ。でも大丈夫なのか、お父さん?」
「いいさ、一晩くらい。」
「ああ。でもうちにも親がいるから、親寝るまで待っててな。」親同士連絡し合うのは当然だ。それもまず一番近い俺の家に連絡が来るだろう。
「うん。」寂しそうだ。半分演技だろうけど、こうゆう人懐っこいところがこいつの魅力だ。
「どこで待っているつもり?」
「ジャスコ。」
「いや、あそこ10時で閉まるだろ。」
「なんとかするよ。どこかそこらへんで。」それは困る。世間は物騒だし、季節は冬だ。
「今どこにいるの?」
「いつもの橋のとこ。」
「ちょっと待ってろ。今から行くから一緒に朝まで遊ぼう。」
「いいの?」
「いいよ。そこにいてよ。携帯の電池ある?」
「大丈夫。待ってるよ。」
「じゃあな」
「ばいばい」
行ってみると、ケンジはトレーナーにマフラーという、見るからに寒そうな格好をしていた。今は2月だ。雪だって降る。
俺が着ていたダウンジャケットをあいつに着せる。俺は家から自転車を飛ばしてきたから火照っていて寒くはなかった。事情を聴いたら、部活と受験について親とケンカしたんだそうだ。サッカーばかりしているケンジを心配する親の気持ちも分かるが、ケンジのお父さんは(昔からよくグチを聴かされるのだが)やや古風で厳しかった。
自転車の後ろにケンジを乗せていろいろなところへ行く。郊外のショッピングセンターだとか、ファーストフード店だとか、出身中学の校舎だとか、以前ケンジが住んでいた家だとか。その間にもケンジの携帯電話にはケンジの母親からのメールや電話が入る。頑固な二人に代わって母親がいつもその仲直りの役目を引き受けている。でも今回はケンジの意思は固かった。この調子だと、すでに俺の家にも連絡がいっているんだろう。まあ、いいさ。なんとかなる。
国道沿いのファミレスに入る。あわよくば朝までここにいたい。暖かくって、安全だ。そのうちケンジは眠ってしまった。ケンカの疲れもあるんだろう。無邪気な寝顔をしている。俺から見ても、ケンジはまだ全然子供だった。そっとしておきたかった。本当にそうしても良かったんだけれども、うるさい客がいてあまりその店にいたくなかったのと、何よりも俺の親を心配させてしまうから、それはできなかった。俺はケンジを無理矢理に起こして、店を出て、俺の家に向かった。夜の11時過ぎだった。
自転車の後ろに乗せてみたものの、ケンジはそのまま寝てしまいそうだった。抱きついてくるのを適当に振り払って(本当は嬉しいのだけれども)ゆっくり自転車をこぐ。
「迷惑じゃない?」
「平気だよ。ってかケンジの親、心配してるじゃん。」
「いいよ。」まだ怒っているみたいだ。こりゃ今夜は帰らないな。
家に着くと、まず俺が先に入った。俺の親はテレビを見ていた。ケンジの母親から電話があったそうだ。俺はケンジと会ったけど、その後ケンジは別の友達と遊んでる、と言った。二階の自分の部屋に入って、窓を開ける。ケンジが塀と木を伝って入ってくる。真夜中に俺の部屋で遊ぶときはいつもこうする。けど今回は親がまだ起きている。慎重に行動するしかない。
ケンジは俺と一緒に卒アルを見たり、音楽を聴いたり、俺のマンガを読んでいた。ファミレスじゃ寝ていたのに、俺の家に来た途端に元気になった。
そのうちに俺の親は寝てしまった。適当に冷蔵庫からお酒を取り出す。俺の親はどちらもお酒を飲むので、かなりの量を買い溜めしている。だから取り出した分だけ補充してしまえばばれることはない。部屋に持っていって飲む。おつまみもある。ケンジはチーズ鱈だとかとグレープフルーツサワーが好きだ。ゲームをやりながら酒は進み、ケンジも俺もそれぞれ3本目を空けていた。そんなことをしているうちに、2時を過ぎ、さすがにお互い眠くなったので、俺は布団を出してベッドの横に並べて敷いてあげた。するとまあ、予想通り、あいつは俺のベッドに入った。仕方なく俺は自分で出した布団に潜る。俺も昼寝していたものの、やはり少し眠い。ケンジのリクエストでしりとりをしていると、やがてケンジは眠ってしまった。やはり疲れていたのだろう。
静かな寝息が聴こえる。俺の布団の方に顔を向けて横向きに寝ていた。いつもは一人で寝る部屋なのに、その夜だけは人のぬくもりを感じることができて、妙に嬉しかった。ケンジの寝顔を見る。父親とのケンカの疲れがにじみ出ていた。それと、愛嬌のある顔だから、つい抱きたくなる。寝顔を見ているうちに、俺の眠気は消え去っていった。
ためしに手を伸ばしてみる。ケンジの耳に触れる。頭を優しくなでる。髪の毛は短く、やわらかく、髪質がいい。寝息は相変わらず規則正しく、寝返りも打たない。
一旦頭から手を離して、次は顔を触ってみる。まっすぐできれいな鼻と、その下のやや薄い唇。寝息に合わせて、温かい空気を感じる。口のまわりをそっと触れる。乾いた唇に、俺の指を重ねる。中指をそっと中に入れる。しめった温もりに触れる。起きているときには決してできないが、今のケンジは抵抗せずに俺を受け入れてくれる。
再び手を離し、今度はお腹のあたりに手を潜らせる。硬いもの指先が触れる。震えを抑えながらもあたりを探ってみる。ベルトだ。わずかに下の方へ手をずらす。ジーンズのファスナーに触れる。顔を見上げると、相変わらず幸せそうな寝顔で眠っていた。寝息も乱れていない。大丈夫。指先でファスナーをたどって足の付け根までゆくと、そこから手のひら全体で股間を包み込んでみる。規則正しい寝息と、俺の震える吐息が静かに部屋に響いている。ジーンズの生地が固くてペニスの位置が分からない。そのまま手のひら全体で股間を優しく揉んでみる。ゆっくり、あまり力をかけずに揉む。時々寝顔を確認するものの、全く変化がない。起きているんじゃないかという気もするが、寝息も変化がないのでそれはないだろう。それに、もし起きていたら黙って寝たふりをするような奴じゃない。