ドアを開けた瞬間、心地よい風が俺らを包んだ。久しぶりの外は気持ちがいい。外は、まだ夕日の光によって明るかった。
生徒玄関には人っ子一人いなく、変な銅像だけが僕らを見ていた。
ちなみにこの銅像のあだ名は『ブリーフ』だ。あだ名の通り、こいつはブリーフしか身に付けていない間抜けな格好をしている。だけど卒業式ではなぜかみんなこいつをバックに写真を撮る。悪趣味にも程がある。まぁ…そういう俺も撮ったんだけど。
俺と元晴は、そんな間抜けな銅像に見送られて校門を抜け、自転車置き場に向かった。振り返って時計を見ると17時23分を指していた。
俺は過保護な親が渡してくれた携帯を鞄から取り出し、元晴に渡した。
「親に連絡いれとけよ」
俺は電話かけている元晴の横顔を眺めた。
その顔をみるといくら言葉を重ねてもらっても、「なんでこんな俺と?」と疑問に思ってしまう。
四季の風のなかで、俺は春の風が一番好きだ。なかでも夕方の風が大好きだ。
部活の帰りなんかは熱くなった体を少しずつ冷やしてくれる。今は、抱き合って熱くなっていた身体がオーバーヒートしないように冷ましてくれている。
基晴が歩きだというと、俺はこれ幸いと自分の自転車の後ろに乗せた。
だけど、元晴は後ろに乗ったのになかなか手を回してくれなかった。
多分照れていたんだろうけれど、当時の俺にとってそれはとても不思議なことだった。
俺が小学校からの友達の光輝(コウキ)に自転車に乗せてもらう時にはいつもその腰に腕を回していたからだ。
なぜだか体を撫ですぎていく風がもどかしくて俺は嘘をついた。
「なぁ、ちゃんと手回してくんねーと怖くて乗れねーよ」
ただ単に元晴と触れ合っていたいだけの話だというのに、元晴はおずおずと、だけどしっかりと俺の腰に腕を回した。
すると先ほどまでの空虚感は消え去り、心が綻ぶような温もりが広がった。
無言のまま、学校が見えなくなるところまで来ると、少し不安そうな声で元晴がきいてきた。
「優さんの親って、もういますよね?」
親の話をされるといつも、心臓がワイヤーで締め付けられるような気持ちになる。
「夜中まで帰ってこねーよ。昔から仕事で遅いんだわ」
投げやりにこう言うと、友達なんかは羨ましいと言う。今はもうどうでもいいけど、小さい頃なんかは結構寂しかった覚えがある。
「…小さい頃とか寂しくなかったですか?」
こいつは…俺の心の中を見通す力でも持っているのだろうか。それとも、俺と触れ合っているからわかったのだろうか。
「まー小4くらいまではな。今となっちゃ嬉しいけどな」
そういって何か返事があるだろうと待ってみたが、妙な間があいてしまっただけだった。
「ぁ、飯、奢るからコンビニでいいか?」
実際、飯くらい作れるが(長年夕飯は一人だったから)、今から作っていてはせっかくの時間が勿体無い。
「あ…、そんな悪いですよ。自分で出しますよー」
「気にすんなって、先輩の顔を潰さないでくれよ」
さっきまでの沈黙が嘘だったかのように明るくいった。
中学生にしたらコンビニ弁当だって痛い出費だが、毎日親が飯代を多めにくれるから問題はないのだ。小学生の頃から学校が終わって家に帰ると、誰もいない食卓にお金だけは置いてあった。
それから間も無くしてコンビニに着いた。
元晴と離れるのは名残惜しいが、今日はこの後いくらでも抱けるんだ!と盛りの雄猫以下のことを思うと、その名残惜しさもまた快感に変わった。
テキトーに弁当と飲み物を選び、夜のためにお菓子も少し買った。あっというまにカゴが重くなる。
俺は念のためにあるモノを買うことにした。
店員が男であることを確認して、小さな箱詰のモノをカゴに入れた。
「それなんですか?」
元晴がきいてきたが、まだ何かはわからないようだった。
「夜教えてやるから気にすんなって。お前歯ブラシいるだろ?」
そういって歯ブラシをカゴに入れながらレジに向かった。
まぁ、もちろんカゴの中身を見た途端にレジの男は、俺をガン見してきた。
『なんで中坊がこんなもん買うんだよ』みたいな感じだ。
俺はシカトしてレジの近くにあったミントガムを一つ手に取りカゴに足した。
前に友達数人と割り勘で買ったことがあったが、それはもう試しに付けて遊んだ時に使ってしまったんだ。
男の店員は、俺がこれから女とヤルとでも思ったのだろうか?それとも、隣にいる元晴とヤルと思っているのだろうか?まぁそりゃーないよな。
店員は箱詰を見た時から、レジが荒くなっていた。
俺は噴出しそうになるのを必死でこらえていた。じゃないとこの店員の硝子のハートを傷つけかねない。
店を出た途端に声をあげて笑ってしまった。硝子の割れる音がきこえてきそうだった。
家に着くなりリビングに部活道具を投げ出し、コンビニで買った物をテーブルに広げた。もちろん小さな箱詰は俺のポケットに閉まった。
「優さん〜、何か教えてくださいよー」と、元晴が上目遣いで見つめていってきた。
こ、これをおねだり光線というのか!と思い、俺は心の中で悶えた。
この光線は、あの有名な映画に出てくる救世主でも避けれないんじゃないか?
それでもなおクールを装いながら基晴のおでこを小突いていった。
「だーめっ。夜になったらな。」
俺らは、楽しく話しながらコンビニ弁当を食べた。もう食べ飽きたその味が、今日はめちゃくちゃ美味く感じられた。
気分の良い俺は冗談交じりに、
「元晴さん 一緒にお風呂にします?それとも私にします??」と言い、元晴をからかった。
「やめてくださいよぉ、じゃぁ、お風呂で…」と、顔を真っ赤にして元晴がいった。
歯磨きを終え、バスルームに向かう途中、俺は元晴を前から抱きしめた。
「なぁ、俺に脱がさせてくれよ?」
ごめん、表面上強気だが内心はめちゃくちゃ緊張してる。
「恥ずかしいですよぉ、、」
本当に恥ずかしそうな顔をして元晴が答えた。
だけど俺は、そんなのお構いなしに上から優しく脱がせ始めた。
ほんの2時間前くらいに抱きしめていた肌が露となった。
滑らかな白い肌に見惚れていると、元晴が自分のアソコを手で隠そうとしたが、それを制して俺は自分の服を脱ぎ、元晴を再度抱きしめた。
元晴は俺の背中に手を回し、抱き返してくれた。元晴の暖かさが直に感じられた。
あの部屋で行った行為で、かいた汗の匂いが感じられた。それは不愉快なものじゃなくて、逆にとても心地良いものだった。
俺は元晴の首筋に顔を押し付けその匂いを嗅ぎながら、そこに舌を這わせた。