1999年7月。ノストラダムスの予言では地球が消滅するという予言だった。
予言は外れたが、7月で世界が終わっていたほうが、良い思い出を残したまま人生を終えることができただろう。
僕は、21歳になった今でも時々そう思うことがある。
翌朝目を覚ますと、僕はどうしてこんなに気分が晴れないのかと疑問に思った。
だが、壮介が他の奴らと騒いでいる声を聞いて、その疑問もすぐに解決した。
僕は、分厚い鉄製のドアのついた部屋に閉じ込められたような錯覚に陥った。
これからのことを思うと、なかなかベッドから起き上がれない。
できればこのまま布団ごと、どこかへ沈んでいけばどれだけ救われるかだろうか。
すると、ベッドの脇から声がした。
「翔太先輩、そろそろ起きないと!朝礼が始まりますよ。」
その声の主が壮介だと一瞬でわかった。
空耳だろうかと一瞬我が耳を疑ったが、それは間違いなく壮介の声だった。
予想外の展開だった。
僕は、このまま壮介とは永遠に口を利くことができないと思ってた。
「うん、わかった…。」
「もう、先輩は以外とだらしないなー。」
だが、僕は何かがおかしいと思った。
普通あんなことがあったら、少しは気まずくなるものではないのだろうか?
まるで、昨夜の記憶だけが抜き取られたかのように普通に振舞っている壮介…。
僕はハッとなった。
そうか、昨日のことは無かったことになっているんだ。
きっとそうだ。
あんなことがあっても、壮介は僕に気を使ってくれてるのか…。
そう思うと少し切なくなってきた。
だったら、昨日の壮介はどうして抱き返してきたりしたんだ?
僕は、僕なりにこう解釈した。
壮介くらいの年齢だと、友情も愛情も憧れもどれもごっちゃになって区別がつきにくい。
だから、最初はじゃれ合いの延長としてやっていたが、段々エスカレートしていって、そして壮介は我に返ったのだ。
男同士で何をやっているんだろうって。
そして、僕の腕から逃れた後に決意したのだ。
無かったことにすれば、また元の先輩後輩の関係に戻れるって。
きっとそうに違いない…。
すると怪訝そうな目で僕の顔を覗き込んだ壮介は、小声で僕にこう言った。
「あれ、先輩どうしたんですか?まさか、昨日の晩のこと気にしてるんですか?」
「ん、んー?いや、別にちょっと寝不足なだけだよ…。」
「昨日の先輩すごかったですよ。男の僕にまでさかってくるなんて、相当溜まってるんですねぇ。早く彼女の1人でも作ったほうが良いですよ!じゃ、僕先に行きますので!」
え?あれ?もう訳がわからない…。
何だ、結局僕は壮介にからかわれていただけなのだろうか…。
もうどうしようもなくて、その後の練習も身が入らず怒られまくった。
人生でこんなに追い詰められたのは、初めてだった。
ここから逃げ出したい…。
僕は、そのまま体調不良を理由に合宿をギブアップした。