俺たちの関係が恋愛と呼べるのかはわからないが、恋愛って良いことばかりじゃないんだと思う。
俺たちはあいかわらず、一緒に帰り、8時にランニングし、しょうもない話で盛り上がったりしていた。
でもそれも3学期になって、少々事情が変わってきた。
というのも、原因は俺にあった。
俺の成績が下がったことで、俺はほとんどの日を塾に費やさなければならなくなったのだ。
必然的にコウスケと過ごす時間は減っていた。
「もしかして、今日も塾か?」
放課後、コウスケが聞きにきた。
「ああ。明日も」
俺は苛立ちを隠しながら答えた。
「そうか。まぁ、俺は毎日走っとるから、もし早く終わったら来いよ。じゃあな」
「ああ。じゃあな」
俺がそう言うと、コウスケは少しつまらなさそうに部活へ向かっていった。
俺はここ最近ランニングに行ってない。塾が終わるのはだいたい9時を過ぎる。
だからランニングはコウスケ1人で、俺はたまに参加できるくらいだ。
それでもコウスケは毎日のように、今日は走れるかどうかを俺に聞いてくる。
正直俺は苛立っていた。
何のためなのかもよくわからない勉強を強いられ、そのためにコウスケからの誘いを何度も断らなければならない。
コウスケはそんなことおかまいなしに、俺を誘っては残念そうに去っていく。
好きな野球やランニングができて、気楽に生きるコウスケを俺はしだいにうらやましく、また疎ましくさえ思うようになっていた。
そしてこの苛立ちが俺とコウスケとの関係を少しずつぎくしゃくさせていった。
2月を過ぎた頃だった。
俺は5日ぶりにコウスケとのランニングに参加できた。
ランニングを終えて、俺たちは近くの公園で休むことにした。
「ハァ、走ったらやっぱ温まるな、体。それにしてもジュンキ、少し体力落ちたんやないか?」
俺たちは電灯にぼんやりと照らせれているベンチに座った。コウスケが隣で言った。
「そうかもな。5日ぶりだから。塾では走ることないし」
今日の俺はコウスケのペースについていくのがやっとだった。それをコウスケに気付かれないように走ったのだが、やっぱりバレてた。
「なぁ、塾ってそんなに楽しいか?ジュンキはそんなに勉強してどうしたいんや?」
コウスケはぼそりと言った。
それは俺の痛いところをかすめる。
「楽しいわけないだろ。でも、将来のためだし、大学とか……」
そんなこと俺にもわからない。
「でも俺、そんなに焦ってやらんでもええ思うけど。なんやジュンキ、無駄に焦っとるように見えるで」
それはまた痛いところをかすめた。
これが自分の望んでることじゃないことくらいわかってる。ただ周りに流されてるだけってことも。
俺は言い返す言葉が見つからない。
「塾、減らせよ。そうすればこうやってランニングできるやろ?一緒に」
またかすめる。
そんなこともわかってる。俺だってそうしたい。
俺はコウスケから目をそらした。
「……俺、最近のジュンキが、ようわからん…」
それはついに突き刺さった。
「…でも、わかっとるつもりや。ジュンキやってホンマは…」
「わかってない」
俺の口から言葉がこぼれる。それは冷たく、沈んでいく。
「……わかるわけないだろ…俺だってわかんないんだよ。好きなことだけやって、気楽に生きてるコウスケにはわからない……わかるはずない……」
「でもな、ジュンキ…」
「俺だって走りたい。でも今はそんなことより大事なことがあるんだよ……」
「大事なことって?俺はジュンキとこうやって走りたい。それじゃダメなんか?大事なことって何や?」
「それは………とにかく…俺を弱気にするようなこと言うのはやめてくれ……俺だっていろいろ考えてんだよ……もうこの話はやめよう」
俺は逃げ出したくてベンチから腰を上げた。コウスケの目は見れない。
すると、寂しそうな声がこう言った。
「俺、転校することになった……」