下手に話し掛ける勇気もなくて、俺はただコウスケの背中についていった。
俺らは住宅地を過ぎて、川沿いを走っていた。
電灯も点々としかなく、薄暗い。
突然コウスケが土手を降りていき、空き地になっているところで止まった。
そこは2,3こベンチがあるくらいで、真っ暗だ。
俺はゆっくりとコウスケに近づいていった。
コウスケが振り返り、俺を見ている。
俺は目を合わさずに、横を向いて黙った。
「…俺、中2の時に初めてああいうDVD見たんや。女が裸になったやつ。友達とな」
俺は黙ったままコウスケの話に耳を向けた。
「周りのやつらは興奮しとった。けど俺にはようわからんかった」
コウスケの言いたいことがなんとなくわかった。
「そんな感じで、高2になって転校してきて、ジュンキを見つけた。そんで俺…ようわからんのやけど……ええなぁって思うようになって…ジュンキを……つまりな、俺もジュンキも男やろ?おかしいのはわかっとるんやけど…」
コウスケが言葉に詰まって、それでも俺に伝えようとしてるのが伝わる。
けど俺はコウスケを直視できない。
「で、いろいろ試してみた。触ったり、いろいろや。じゅんき、案外嫌がらんから、もしかしたら思うて……でも確信がもてんくて、俺どうすればええんやろってずっと考えとった。でも俺アホやから、考えてもしゃあない思って……」
「…ジュンキも、俺と一緒なんやろ?……だから、男が好き…て意味で……」
コウスケの声が震えている。なんだかかわいそうに思えた。無理してるのがバレバレだ。
俺はなんと言えばいい?
はい、そうです。
こう言ってしまえば楽になるんか?
でもそう言ってしまえば、自分が『普通』じゃなくなる気がした。
俺はこういう自分を今までずっと隠してきたわけで、それをこんな簡単にバラしていいのだろうか?
俺はなんとも言えず黙ってしまった。
コウスケのことは好きだが、いざとなると踏み切れない自分に情けなくなった。
「なぁ、ジュンキ?」
簡単なことじゃないかもしれない。コウスケだってこの言葉を言うまで悩んでただろう。
コウスケの気持ちを無駄にしたくない。
それに、ここで否定したら絶対後悔するだろう。
俺はゆっくりとうなずいた。
「…うん。俺もコウスケと……一緒だと思う」
言った。言ってしまった。言えたんだ。
「好きってことか?」
コウスケは信じられないというように聞いてきた。
「ああ、たぶん。よくわからんけど」
俺は今だにコウスケを直視できず、横を向いたまま答えた。
突然自分の頬に温かさを感じた。
コウスケの手が俺をコウスケの顔に向けた。
いつもよりキリッとした、優しげな表情だった。
俺はたぶん無表情だと思う。
コウスケは白い歯を見せて、俺にキスした。
俺はそれを受け止めた。
コウスケの吐息を間近で感じ、その息を俺は吸った。
唇は思った以上に柔らかくて、熱かった。
コウスケの腕が俺を包むのを感じた。
しだいにそれは強くなった。
俺も無意識にコウスケの背中に腕を回していた。
コウスケが口を開けたから、俺もそうした。
舌ってこんなに熱いのか。
俺らは何度も舌を絡めた。
無我夢中だった。
コウスケの唇が離れ、密着も解かれた。
コウスケが微笑んできた。
ここで初めて恥ずかしさというものが俺の全身を走った。
俺は顔が熱くなるのを感じでうつむいた。