よくわからないが、正人さんと会えると思うと嬉しくなった。
誰とも、家族、友人にさえも会いたくなかったのに、仕事が終わるとすぐに帰ってきてたのに。
何でだろう。妻と子の写真を見る。二人が笑ってる。
とにかく出掛けないと。
シャワーを浴びた。妻のボディーソープを使った。
風呂上がりに、香水を体全体と耳元にも付ける。
新しいドルガバのボクサーを履いた。
最近買い物をしてない。服とコート買いに行かないと。
まだ4時なのに、何慌ててるんだろう。何で新しい服買いに行ったのか、あの時の気持ちは説明できない。慌てて車に乗り込んだ事だけは覚えてる。
正人さんはかなりオシャレ。インポートブランドのファッション関係者。
子供だと思われたくなくて、あの時はその事しか考えてなかった。
GUCCIでインナーとパンツと靴を買って、黒のトレンチコートを正人さんのブランド店(バレるとまずいんで)で買った。奮発しすぎて一歩間違えれば夜の男みたいになりそうだったが、馬鹿みたいに使った。正人さんに会うから。
家に戻った時6時30分。
酒が入るので車を駐車場に入れて、タクシーに乗り込む。
待ち合わせの8時より1時間程早く着いた。
待ち合わせ場所近くのカフェでコーヒーを飲んだ。
緊張してたまらなかった。
何ドキドキしてんだ?俺…
45分前、一人で正人さんが店に入って来た。普通にコーヒーを頼んでる。早過ぎだろう?と思ったけど、席を探してる様子だったから、手を振って合図した。
『あっ、ご主人じゃーん!もう来てたのご主人?(笑)』
大きい声でご主人と何度も呼ぶのだ。
年下男をご主人と呼ぶ年上男に、訝しげな顔をする周囲の客。
『いやー、俺さ、ご主人に早く会いたくてさ、仕事今日達人並みに早く片付けたのさぁ、すっげーしょ?ご主人も早いね。何時から来てたの?』
「あの、何でもいいんですけど、ご主人って止めてください、俺、大翔って名前がありますから!」
『そうかぁ。ご主人、ってのも、響きがエロくて気に入ってたんだけどなぁ。やっぱり嫌か?じゃあ大翔君で!』
飲みに行く前に、カフェでコーヒーとサンドイッチを食ってしまい、腹が軽く埋まってしまったので、食事を止めて、正人さんの友人が経営してるバーに行くことになった。
タクシーに乗るとき、『あっ!それウチのコート、お買い上げ有り難う!高かったっしょ?って今日のご主人、雰囲気違うよ、何かかなり大人だな。25に見えないよ。格好いいよご主人!やべぇ、大翔君!!』
むちゃくちゃ嬉しかった。掴めたんだ俺!!
正人さんの友達の店は、中心部からはかなり外れてた。
車通りの多い国道から少し入った住宅地の中にぽつんとある、昼カフェ夜BARだった。
かなり飲んだ。昨日の今日で、当時気付いたのが、正人さんは酒がよえー!
友達もいつも送って行くらしい。
『悪いんだけど、この馬鹿送ってくんない?住所ここ、カギはカバン中入ってるから。カードキーだからロッカーの鍵とかじゃないから間違えないで。』
住所を見て驚いた。超高級住宅街だ。
恐る恐る送って行くと、テレビドラマの金持ちが住むマンションだ。
かなり広い。洗練された部屋。
格差を思い知らされた気がした。
とにかく正人さんを一度起こそうと思い、「正人さん、家着きましたけど、正人さんの家ですよ!」と言って、ほっぺたを少しパチパチした。
『済まないねぇー、ご主人、まぁ狭くない我が家ですから、ゆっくり休んで行け、若者(笑)』
かなり酔っ払っていた。
とにかく、正人さんを着替えさせないと、数十万するコートやスーツが大変だと思い、着替えさせようとしたら、完全に落ちていた。
とにかくコートを脱がせ、ネクタイを取り、スーツのジャケットを脱がせ、あちこちを見渡しても、どこに入れていいのかさえわからずにいると、『それはぜーんぶクリーニングです。ズボンも脱がせて』と言ってきた。
こいつ、まじで酒癖わりぃとウンザリしてきてたが、面倒くさいからズボンも脱がせようとした時、突然ギュッと抱きしめられた。
あまりに突然だったからどうしたのかと思ったけど、ただ酔っ払ってるだけかと思い、「ハイハイわかりました。もう少しで着替え終わりますから、スウェットかパジャマどこっすか?」と言っても返事が帰って来ない。
様子がおかしいから、「どうしたんすか?」と聞いたら、『今日はご主人が俺を慰める番、今日は俺の家泊まって、俺の離婚について聞いてくれ!』と言い、強く抱きしめて離さない。
俺も強く抱き締めた
支えてくれたお礼のつもりで。